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積水化学型MIは超やる気人財が主導、配合設計の検討速度900倍など成果も高速で創出マテリアルズインフォマティクス最前線(1)(2/4 ページ)

本連載では素材メーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを採り上げる。第1回では積水化学工業の取り組みを紹介する

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MI導入の課題と積水化学型の解決策とは?

MONOist なるほど。外部環境の危機感を抱いた社員が主導してMIの導入に踏み切ったんですね。MI導入で課題になった点と解決策を聞かせてください。

日下氏 課題は「人財」「技術」「環境」だった。人財では獲得競争が激化しているデータサイエンティストの確保がハードルとなった。解決策として、社内公募制度を用いて、社内でデータサイエンティストとして成長したいとチャレンジする人財を募った。要するに、社外からすごい高い給料でデータサイエンティストを迎える方法より、社内で(素材開発を取り巻く環境に)危機感を持っている社員を公募する方が良いと考えた。

 その結果、データサイエンティストへのチャレンジ精神を強く持つ複数人の優れた人財が集まった。ただし、集まった人財は、開発のプロフェッショナルであったが 、データサイエンティストとしてはほぼ未経験であった。

 そこで、開発に貢献できるデータサイエンティストとして必要とされる技術、能力を可視化した表「人材スキルマップ」をベースに4段階のレベルを設定し、データサイエンティストの技術を習得させており、自立型のデータ解析技術を持つ人財に育成している。


積水化学工業 情報科学推進センター MI推進グループ グループ長の新明健一氏[クリックして拡大]

新明健一氏(以下、新明氏) 4段階のレベルでは、機械学習の技術だけでなく、素材開発の経験や社外との連携力、マネジメント力など、開発の全体像を理解し、先導できる能力の度合いを各レベルで設定した。これにより、各データサイエンティストが現在どのレベルにいるかが分かり、レベルを上げるためにどの技術、能力を取得するかが理解しやすくなっている。現在は、社内公募だけでなく新卒/中途採用でMI活用に関心がある素材開発者を増やしている。

 技術に関しては、開発課題を迅速に解決するデータ解析技術やノウハウが足りていないという課題認識を持っていた。そこで、インフォマティクス領域にて先端をいく複数の大学や研究機関との連携を積極的に進めることによって、人財教育の加速、解析技術力の向上を実現した。

 外部連携ではMIに精通した社外の研究者からさまざまな情報を集めるとともに、それと合わせる形で、社内人財のデータサイエンティストへの育成に独自の教育システムを構築していった。保有技術の活用では、当社の素材開発で培った技術群「テクノロジープラットフォーム(TPF)」との連携を推進し、同様にTPFの一角を担うデジタル解析技術や評価分析技術との掛け算により、当部署のデータサイエンティストが保有する技術を使いやすくするとともに、当社独自の情報科学技術を開発しやすくした。

 また、これまでに1000人を超える全社の開発者に丸2日間の情報科学セミナーで教育を行った。情報科学セミナーでは、、実験計画や統計解析などデータサイエンスの基礎的な知識の教育だけでなく、開発へのMI適用を学んでもらっている。これにより、全社の開発者がデータ活用の基礎を学び、実際に自身の開発テーマにも活用できるようになるし、本セミナーを通して、MI活用の相談や協業の打診を受けるなど、情報科学推進センターの広報活動にもなった。

 環境の課題はMIを実施するに必要な開発データの整備が進んでいないことだった。こういった状況を打開するために、MI推進グループにデータ活用変革チームを組織し、開発部署の協力を得て、開発に特化したデータベースの整備を実施した。これにより、複数の開発部署にてデータ活用が進み、開発加速や製品展開などの貢献実績が生まれてきている。

 MIに特化したデータ変革チームは、2020〜2021年にかけて情報科学推進センターにアサインしたメンバーで構成された集団でMI推進グループに所属している。活動の一例を挙げると、データ変革チームは、素材開発者から実験内容などをまとめたExcelデータを受け取り、データの洗い出しや必要なデータの抽出を経てデータベースとしてまとめることでMIへの活用をスムーズに行えるように整備をする。


MI導入の課題と積水型の解決策[クリックして拡大] 出所:積水化学工業

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