「始めます!」で終えぬために、カスタマーサクセス2.0実現のポイント:製造業のための「カスタマーサクセス」入門(4)(2/3 ページ)
顧客の成功体験づくり、「カスタマーサクセス」の重要性に国内外の製造業から注目が集まっています。本連載ではこの概念を分かりやすく解説します。最終回では実際にカスタマーサクセスに取り組む場合のつまずきポイントや対応策に触れつつ、カスタマーサクセス2.0の実践の仕方を解説します
カスタマーサクセスを実現する5つの組織モデル
ここで、カスタマーサクセスのプラットフォームを提供するGainsightが示している、5つの主要な組織モデルを紹介します。
(1)Firefighter Customer Success Management(以下、CSM)
購入後の顧客からのクレームやサポートに対し、いわば消防士のようにスピーディーに火消し(解決)を行い、継続的に利用してもらうことを専門に行います。これは、ビジネスの初期段階に多く見られ、組織はサービス部門に属することが多いようです。先に示した商品サービス特性の中で、特性が単純な汎用品を扱い、継続的な販売に重点を置いて競争している企業に多く見られます。
(2)Sales-Oriented CSM
先に示した商品サービス特性の中で、特性が単純な汎用品を扱い、販売拡大に重点を置いて競争している企業に多く見られます。このモデルでは、CSはセールス部門の中に置かれることが多く、収益に直結するアップセルの役割を担います。ややもするとセールス的思考が強くなり、顧客視点での思考や行動を疎かにしがちです。
(3)Service-Oriented CSM
こちらは、商品サービスの特性が中程度で、よりビジネスが成熟してきた企業で採用されているモデルです。Firefighter CSMと同じくサービス部門に属していますが、部門の機能がより細かく専門的に把握されており、CS部門は特に顧客の利用体験フォローを中心に担っています。
良い点は他のチーム(クレーム問い合わせ担当、利用開始時の使い方教育担当)と連携が取りやすいことでしょう。他方で、セールスとの絡みが少なくなり企業収益感度が低くなったり、顧客にとってはさまざまな部門からの接触が多くなったりすることには注意すべきです。
(4)Integrated CSM
提供する商品サービスの複雑さが中程度で、より成長段階にある企業によく見受けられるモデルです。このモデルでは、最高顧客責任者(Chief Customer Officer、CCO)を置き、既存顧客を対象とした継続購買やアップセルを担います。そして、営業側は新規ビジネスの成約に特化します。
現在、世界では約500人以上のCCOが活躍しているといわれています。CCOは顧客体験を向上させるための全社横断の新しいプログラムやシステムを考え、設計します。顧客ロイヤルティープログラムの設計、顧客のフィードバックを分析する専門チームの設置、その分析を基にした包括的な顧客戦略策定推進、従業員向けトレーニングプログラムの実施など多岐にわたる業務を担います。これらを実行するため、CCOは部署やチームを跨いで会社全体での顧客重視の環境づくりを進めていかなければなりません。よって、このモデルの成否はCCOの手腕によるところが大きくなるでしょう。
(5)Partnership CSM
これは、非常に複雑な商品サービスを提供し、競争力のある販売やサービス部門を持つ、ビジネスの成熟度が高い企業に見られるものです。CSはサービス部門の中に位置していますが、他サービス部門や営業との連携によって顧客重視の姿勢で臨むことができます。顧客の利用体験にフォーカスして、そこから得られた洞察をセールスのみならず、製品開発部門やマーケティング部門に循環させていきます。
ただし、この場合は効果を定量的に把握することが難しくなりがちです。前述したように、この部門の役割を定量/定性両面で定義しておくことが大事でしょう。ちなみに、筆者の所属企業はこのモデルに属しており、この運用体制が機能すると、非常にスケーラブルで強力な企業内での学習成長がもたらされることを実感しています。
以上をまとめると、自社が提供する商品サービスの複雑さに応じて顧客対応の役割を規定し、現段階での企業のビジネス成熟度と照らし合わせながら、どのモデルを採用すべきかを考えると良いでしょう(図8)。
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