検索
連載

ゲルマラジオで考えるダイオードのはなし注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(10)(1/2 ページ)

注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。第10回は、無電源でAMラジオを聞けるゲルマニウムラジオを元ネタに、ダイオードについて考えてみる。

Share
Tweet
LINE
Hatena

はじめに

 読者の皆さんも小さい頃、ゲルマラジオを作ったことがあるのではないでしょうか。アンテナさえ何とかなれば、無電源で、ラジオ放送局から送られてくるニュースや音楽、落語などさまざまなコンテンツがクリスタルイヤフォンから流れてくるのです。そして夜になればその音量はさらに上がり、秋の夜長を楽しむには最適なラジオでした。そのまま寝入ったとしても電気代や電池の消耗を心配する必要はありません。

 最近「1N60」というかつてのラジオ少年なら誰でも知っているであろうゲルマニウムダイオードを入手しました。それでゲルマラジオを作ったのですが、今聞くとその音はとてもクリアで、受信電波を変換/増幅するスーパーヘテロダイン方式ではとても到達できないある種の極致さえ感じました。ですが、私たちが慣れ親しんだこれらのゲルマニウムダイオードは、そのほとんどが生産中止で、現在入手できるのは流通在庫のみです。

 この1N60以外にも中国産やロシア産のゲルマニウムダイオードが日本市場でも入手可能なのですが、これらについては生産中なのか安定供給が可能なのか、不明なところが多々あります。そんなわけで今後入手が厳しくなるであろうゲルマニウムダイオードの代替をいろいろと探し回ったエピソードをお話します。

⇒連載「注目デバイスで組み込み開発をアップグレード」のバックナンバー

中波帯受信用途での代替

 まず考えたのは、無電源のラジオを作るなら低い順方向電圧のダイオードを探さねばならない、ということでした。そこで目に留まったのはショットキーバリアダイオード「HN2S01FU」です。

 本来の用途は低電圧高速スイッチング用で、順方向電圧が低いと電圧降下が少なくて済むので、電源回路などに用いられているようです。順方向電圧の低さは1mAで0.18Vを誇ります。また、東芝デバイス&ストレージという国内企業の製品ですので供給やサポートも安心です。図1はHN2S01FUのパッケージのピン配列と寸法です。

図1 「HN2S01FU」のデーターシート
図1 「HN2S01FU」のデーターシート 出所:東芝デバイス&ストレージ

 1つのパッケージの中に3つのダイオードが収められています。それはよいのですがパッケージがあまりにも小ぶりなのでいろいろと工夫をしないとブレッドボードなどを用いた電子工作で手軽に扱えません。筆者は2本のピンヘッダを少し内側に曲げて、図1で示すパッケージの幅まで狭めて3番ピンと4番ピンあるいは1番ピンと6番ピンにはんだ付けします。パッケージには3本のダイオードが入っているので少しもったいない気はしますがその中の1本のみを使います。

 これでラジオを製作してみました。ダイオード以外は全てゲルマラジオの回路と同じです。結果はめでたくゲルマニウムダイオードと遜色ない音量と音質でした。ということでHN2S01FUは中波帯の受信機の用途であればゲルマニウムダイオードの代替となり得るという結論です。ただし、HN2S01FU以外のショットキーバリアダイオードの中にも低電圧スイッチング用途であれば同じように低い順方向電圧の素子を見つけることができるでしょう。これらも同様に無電源ラジオのゲルマニウムダイオードの代替とし使えるかもしれません。読者の皆さんもそのようなダイオードをぜひとも探してみてください※)

※)筆者が以前HN2S01FUを購入した秋月電子通商では、今(執筆時)は取り扱いがないようです。ただし、他の電子部品ECサイトでは販売しているので検索してみてください。

2.4GHz帯への挑戦

 ゲルマニウムダイオードの1N60の付け根の両端をクリスタルイヤフォン(セラミックイヤフォン)のミノムシクリップで挟むと超簡易型Wi-Fiディテクターとなります(図2)。これをWi-Fiルーターなどに近づけると「パタパタパタ」とSSIDをブロードキャストしている音がクリスタルイヤフォンから聞こえてきます。注意深く聴いていると「チュルチュル」と音がします。音量はSSIDほどではないですが、Wi-Fiルーターと接続した端末間のペイロードの音ではないかと推測されます。

図2 ゲルマニウムダイオードを使った超簡易型Wi-Fiディテクターの外観
図2 ゲルマニウムダイオードを使った超簡易型Wi-Fiディテクターの外観

 偶然とはあるもので、1N60の両端のリード線の長さが2.4GHz帯の波長に合っているのです。2.4GHz帯であればWi-FiだけでなくBluetoothでも同じように通信音を聞くことができます。なお、電子レンジで使用している電磁波も同じく2.4GHz帯です(電子レンジの筐体は電波的に一定程度遮蔽(しゃへい)されているのでそれほど大事にはならないとは思いますが、読者の皆さんも君子危うきに近寄らずで、むちゃなことはなさらなでください)。この用途でもゲルマニウムダイオード1N60の代替できるかを、先ほど中波帯の受信に成功したHN2S01FUでやれないか試してみました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る