長期保管在庫を大幅削減 複雑なサプライチェーンを明瞭に分析するDXツール:サプライチェーンのDX
サプライチェーンを取り巻く不確実性が強く意識される中、危機への迅速な対応につなげるべくDXを通じて調達リスクの可視化を進める企業が増えている。では具体的にどのように改革を進めるべきなのか。
パンデミックや地政学リスク、インフレなど、製造業のサプライチェーンを取り巻く環境は不確実性を高める一方だ。これを背景に、各企業がサプライチェーンのDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。サプライチェーン上の調達リスクを見える化し、関連業務の自動化・高度化を推進して調達リスクへのレジリエンス強化を図っているのだ。
では、具体的にDXをどのように進めればよいのか。「製造業向け Tableau ウェビナー 2022 〜サプライチェーンのDXとデータ活用〜」(2022年11月15日開催)では、サプライチェーンのDXに取り組む企業の事例やDX推進で押さえるべき勘所などが紹介された。製造業でもさまざまな導入事例があるビジュアル分析プラットフォーム「Tableau」を活用し、どのようにDXを進めたのかが分かりやすく示された。
デジタル化失敗の方程式は「IT化=問題解決」
最初に登壇したのはゴールドラット・ジャパンのCEO岸良裕司氏だ。『ザ・ゴール』などの書籍で有名なエリヤフ・ゴールドラット氏の著作『チェンジ・ザ・ルール!』を参照しつつDXのポイントを解説した。
DXという言葉が普及する前から、多くの企業はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などさまざまなITを駆使した取り組みに注目してきた。だが、これらのテクノロジーを実際に導入しても思うほど課題解決の効果が出なかったという話は珍しくない。
この原因について岸良氏は、「デジタル化が失敗するケースでは、『IT化=問題解決』という方程式が描かれているように感じます」と指摘した。そして、『チェンジ・ザ・ルール!』から「IT投資によるテクノロジー装備だけでは利益向上につながらない。なぜならルールが何も変わっていないからだ」という文章を引用し、自社変革はまず「ルール」を変更することが大事だと訴えた。
こうした「ルール」の変革事例として岸良氏は、オムロンの全体最適のマネジメント革新プロジェクトに関与した際の実体験を紹介した。同社はトヨタ生産方式の導入をはじめとする生産改革に長年取り組んできたが、思うような成果が出なかった。そこで岸良氏はそれぞれの部署が個別に効率化する従来の方針を改め、全体を俯瞰(ふかん)しつつボトルネックの特定とそこに集中して改善する方針に切り変えた。
その分析の過程で、全体最適化を阻害する要因として、生産プロセスにおける早期の資材投入があると判明した。全ての設備稼働率を最大化するために、本来のタイミングよりも早く資材を投入することで、材料や部品の滞留時間が増え、過剰在庫が膨らみ、しかも、変化し続ける市場の需要に対応できず、欠品も発生していたことが明らかになった。
そこで岸良氏は、考え方の「ルール」を幾つか変えることにした。例えば「なるべく早めに投入することが納期を守ることにつながる」という考えを、「納期に引き付けてなるべく遅く投入することが納期を守ることにつながる」と変化させた。この結果、リードタイムは13分の1になり、過剰在庫と欠品の同時解消を実現したという。
岸良氏は、変えたルールを定着させ、幅広く展開するためにはITは欠かせないとして、「ITを導入すること自体が問題解決につながるわけではありません。問題解決をしてからIT化するという考え方が大事です。こうすることで、ITはコストではなく利益を生むのです」と語った。
9週間以上の保管在庫を80%削減
次のセッションでは、Tableauを活用して顧客への製品提供のリードタイムを削減したTDKの事例が紹介された。
TDKが初めてTableauを導入したのは2016年だった。当初は10人程度のユーザーが利用するのみだったが、それ以降のユーザー拡大施策などが功を奏し、2022年期末にはユーザーが3000人を超える見込みだという。
TDKにはTableauの活用を推進するチームがある。TDK SCM&経営システム本部 ビジネスシステムグループ 業務ソリューション部 業務支援グループの青木孝雄氏は「Tableauに関する社内のWebトレーニングやユーザーの悩みに個別対応する相談会、以前から運用していた情報システムを基にしたデータソース整備、社内コミュニティー活動や情報発信を目的とした社内ポータルの運営などを行っています。2022年期からは、Tableauのパワーユーザーを育成するための活動も開始しました」と説明した。
Tableauを導入した狙いの1つが、現場との改善活動を通じたCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)の改善にあった。仕入れから現金回収までの期間をできるだけ減らすことで、同社が中期経営計画で掲げた「Asset Value(資本効率)の向上」に貢献できる。
だが、CCC短縮を目指す上では幾つもの課題を解決しなければならなかった。最初に直面した問題の1つが、「リードタイム」という言葉の定義が社内で統一されていなかったことだ。これではサプライチェーン全体のリードタイム短縮がうまく進まない。
そこで供給計画の策定から顧客に製品を供給するまでのリードタイムを「ビジネスLT(リードタイム)」と定義した。そしてビジネスLTを、
- 製品を工場倉庫に入庫するまでの「生産供給LT」
- 製品を販売会社(販社)の倉庫に入庫するまでの「輸送LT」
- 顧客の下に届けるまでの「配送供給LT」
に分けて、それぞれをTableauで可視化した。
その後、データを活用したサプライチェーンの課題把握や改善策の実行に向けた取り組みを進めた。最初に分析したのは販社倉庫の在庫データだ。まず、Tableauで販社保管の日数を層別に整理した。その中でも9週間以上保管されている在庫に注目し、その原因を見極めるためにヒートマップ分析を実施した。Tableauでは顧客別に保管期間を一覧したり、保管期間が長い順に数社の製品情報や入庫日などを確認したりすることも可能だ。
さらに現場での改善活動につなげるために、これらの情報をTableauのダッシュボードで把握できるようにした。保管期間の長い製品がどの工場から出荷されて、その際の担当者が誰だったのかなどの情報も確認可能だ。
TDK SCM&経営システム本部 SCM 改革グループ 業務改革推進部の黒瀬彩記氏は「Tableauはダッシュボードのデータが月ごと、週ごとに自動で切り替わります。Excelによるデータ分析では、データをローカルに毎回ダウンロードして更新しなければなりません。Tableauであればこうした時間を削減できます」と語った。
Tableauには現場にデータを定期配信するアラート機能も搭載されている。TDKはこれに加えて、データのみでは把握しにくい点について、地域別データを基に要因や対策を現場と意見交換する月次共有会というヒアリングの場を設けて課題の要因分析や対策につなげている。
つまり、リードタイムの見える化によってサプライチェーン全体の状況を配信(Observe)して、課題発見(Orient)、意見交換に基づく対策の決定(Decide)、対策を実行して効果を測定する(Act)というOODAループ(ウーダループ)の実行が可能になったのだ。TDKは、これによって2019〜2022年までの間に全体在庫を約50%、9週間保管している在庫を約80%削減することに成功した。
黒瀬氏は今後の展開として、「OODAループのうち、ObserveとOrientによる現場分析力の向上とDecideとActを通じた改善活動の加速と成功事例の増加、保管日数削減によって当初の目標である資本効率向上に努めます」と意気込みを語った。
5つの指標で調達リスクを分かりやすく評価
最後のセッションでは、セールスフォース・ジャパン TABLEAU シニアソリューションエンジニアの森谷隆之氏がサプライチェーンの管理とデータ分析用ソリューション「Supply Intelligence」を紹介した。
森谷氏は昨今のサプライチェーンを取り巻く不安定な状況を概観した後、「解決にはサプライチェーン全体の把握が必要ですが、この試みは非常に難しいミッションです」と指摘する。解決を困難にする要因の1つが、サプライヤー、製品、顧客の3者の関係性が複雑なことだ。それぞれの情報がサイロ化しており、サプライチェーンの全体像はより把握しにくくなっている。
これを解決するのが、高度な情報ダッシュボードを備えたTableauのSupply Intelligenceだ。複雑なサプライチェーンの状況をリアルタイムで一元管理することで、管理工数削減と企業の利益向上を支援する。サプライチェーンのレジリエンスを評価するために「供給と需要の信頼性」「インフレの影響」「ロジスティクス信頼性」「品質信頼性」「在庫状況」の5つの指標を設定しており、これらのデータを組み合わせることで欠品予測や在庫最適化、ボトルネックとその影響範囲の特定などもできる。
Supply Intelligenceのダッシュボードのサマリー画面には、欠品などによる売り上げ機会の損失に加え、製品を販売する側と材料を買い付ける側のレジリエンス評価について先述の5つの指標で評価した図が表示される。サプライチェーンを巡る現状の課題が一目で分かる。
製品の不足状況をまとめた画面では、製品の種別ごとに不足状況をより詳細に表示できる。不足状況は円の大小や色で示され、直感的に分かりやすい。今後30日間の注文リストやAIによる需要量予測を基にした在庫数量の推移を時系列で確認することも可能だ。
製品を個別選択すると、その製品のサプライチェーンについてレジリエンスの強度や在庫量、顧客需要に対する供給量、時間通りに納品できているかどうか(OTIF)などを確認できる。製品を構成する材料別の調達リスクやそれらのサプライヤー別の納入状況も把握可能だ。
調達リスクが高い材料については代替サプライヤーの検討も選択肢になる。これについてはサプライヤーの調達リスクや調達経路、自社の要求通り納品できるかどうかなどをダッシュボードで確認した上で検討可能だ。検討の結果、問題なければダッシュボードからサプライヤーに見積もりを Slackやメールで依頼できる。
Supply Intelligenceは、サプライチェーン全体を広くモニタリングできる。しかし、サプライチェーンの業務は多岐にわたり、専門性も高い。森谷氏は「調達購買や生産、ロジスティクス、在庫など個別領域をより深く分析する場合は、用途に応じて当社の専門ツールで対応できます」と語った。
昨今の製造業の市場環境を鑑みるに、サプライチェーンDXは企業の最重要経営課題の1つになったと言っていい。しかし、DXの手段やノウハウを持たない徒手空拳の状態では課題解決には到底たどり着けない。一番の近道は、BIツール活用をはじめ多くのデジタル改革の知見を持つセールスフォース・ジャパンのような企業に相談することではないだろうか。
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提供:株式会社セールスフォース・ジャパン
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年2月26日