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「アップサイクル」に求められるもの、そして「リープサイクル」が照らす未来環デザインとリープサイクル(7)(2/4 ページ)

連載第7回では「アップサイクル」の在り方を見直し、真に求められる方向性を示しつつ、さらにその先の未来を見据えたアプローチである「リープサイクル」の考え方について詳しく紹介する。

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「再利用しやすい状態」と「再生利用しやすい状態」

 「循環的利用」のトラックにおいて、「再利用しやすい状態」と「再生利用しやすい状態」は少し異なる方向性になる。

 再利用しやすい状態の1つは、本連載第3回第4回で述べたように、ある程度汎用(はんよう)性のある離散的ユニットにすることであろう。複数の材料が複合した状態であっても、このユニット一まとまりの単位で、再び分解/組み立て直して再利用できるのであれば、簡単に捨てられることなく、組み替えられて未来に生かされ続ける可能性が高まる。

 2014〜2020年にかけて実施された欧州連合(EU)の研究助成プログラム「ホライゾン2020」では、「BAMB(Building as Material Banks)」と題され、「リバーシブルビルディングデザイン(分解/解体が可能な建築工法)」の大規模な研究が行われていた。連載第3回でメタボリズムを紹介した際に述べたが、建築分野ではこうしたモジュール化、ユニット化のアプローチは比較的なじみやすい。

リバーシブルビルディングデザイン
図2 リバーシブルビルディングデザイン[クリックで拡大] 出所:BAMB 2020(https://www.bamb2020.eu/topics/reversible-building-design/ より)

 一方、再生利用しやすい状態とは、アップサイクルの過程で材料を1種類のみに絞り、シングルマテリアル(モノマテリアル)化することから始まる。紙なら紙、瓶なら瓶、プラスチックならプラスチック(プラスチックの中でも、特に「1種類の」プラスチックだけに選別すべきである点に注意)のみとし、接着剤なども使用しない。こうした制約を課しながら、新たなデザインを施せば、将来的にその製品が使われなくなっても、そのときには再生材料として「資源化」される可能性が確保されることになる。

 注意が必要なのは、手作業のアップサイクル(DIYや修理/修繕)においては、複数の廃棄物を「のり」や「接着剤」、あるいは「糸」や「くぎ」などを多用して接着することが増えるが、これは「再生利用しやすい状態」からは逆行している。材料が混在している状態は、むしろ資源化をしにくくする。接着剤を多用するDIY型アップサイクルは、その瞬間では廃棄を回避し、社会に生かしているように感じられるかもしれないが、その実、最終的に燃やすか埋め立てるしかない結末へ、むしろ近づけてしまっている可能性もあり得る。

 先に述べた通り、修理や修繕を重ね、できるだけものを長く使用するという製品ライフサイクルのストーリーに乗っているのであれば、DIYとの組み合わせは、1つの解である。さまざまな接着や接合の工夫があり得てよい。しかし、その担保がないのであれば、「材料が1種類であれば、資源に戻して再生利用できたかもしれない製品」を、「材料を複合化させ、混在させたために、最終的に燃やすしかない製品」へと変えながら社会に戻し、それをアップサイクルと呼ぶのは、矛盾をはらんだものに見えてしまうのは筆者だけだろうか。全てのアップサイクルがそうであるというわけではないが、実際そういうケースが存在する。

 他方、“1種類のシングルマテリアルに絞って、新たな価値を付与する”というやり方は、近年、特にプラスチックペレット式の3Dプリンタの登場に伴って、社会に登場した新しいアプローチである。もともと3Dプリンタは、使用する材料を厳しく選ばざるを得ない加工技術である。だからこそ、3Dプリンタを通じてアップサイクルしようとする際には、必然的に材料が選別され均質になる。積層造形という加工方式によって、接着も接合もない状態へと「純化」される方へ導かれる。連載第4回では、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)表彰台プロジェクトを事例として挙げ、その可能性を紹介した。現在も筆者のラボではこの方式の探究を続けている。

筆者のラボにある大型3Dプリンタで製作したベンチ(1)
図3 筆者のラボにある大型3Dプリンタで製作したベンチ(1)[クリックで拡大]
筆者のラボにある大型3Dプリンタで製作したベンチ(2)
図4 筆者のラボにある大型3Dプリンタで製作したベンチ(2)[クリックで拡大]

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