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商船三井の自律運航船開発がいろいろと「すごい!」件船も「CASE」(2/3 ページ)

商船三井といえば、日本郵船と並んで日本海運の双璧ともいえる歴史と業績を誇る企業だ。自律運航技術を紹介するこの一連の連載ではすでに日本郵船の取り組みを紹介しているが、商船三井も当然ながら独自に研究開発を進めている。

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 商船三井の自律運航技術開発には現役の航海士も参加している。商船三井 技術革新本部 スマートシッピング推進部 スマートシップ運航チーム コーディネーターの佐竹賢一氏もその1人だ。海面上40〜50mの高さの本船ブリッジからは約20マイル(約32km)先まで目視できる。実際の当直では双眼鏡や各種航海計器を使ってターゲットを捕捉、認識することになる。「目視を基本としてレーダー、AIS、それ以外にも使える全ての情報を統合して危険を探し、それぞれのターゲットに対して法規も踏まえた最適な操船プランを常に検討し続けながら航行している」(佐竹氏)

 この従来目視=見張りで得ていた周囲の船舶の情報を得るため、自律運航技術開発ではカメラによる画像認識技術を活用しようとしている。ただ、こちらも、「ハードウェアの部分が全く追い付いていない」(佐竹氏)という。「人が見える範囲までは全然見えていない。経験の浅い航海士でも識別できているようなものさえも捕捉できない。カメラを通した画像では、画像をPCに取り込んで拡大しても分からない部分もある」(佐竹氏)という状況で、これはAIを活用した画像認識技術でも同様だという。

 「鍛えている航海士の能力というのは、陸上で普通に生活している人の想像を超えている。彼らと同じレベルの距離から、AIでそこに船がいるのが分かるようになるまで、まだ時間がかかりそうだ」(上原氏)

航海士の判断が「優秀すぎる!」件

 将来的にセンシングデバイスが改良されてこうした避けるべき対象の認知ができるようになったとしても、その先にある「他船と衝突しないようにどのように避けるか」を判断しなければならない。

 従来の操船では衝突の可能性がある他船を避ける(これを「避航」という)ためにぶつからないルートを人間が考え、人間が操船してきた。このとき、避ける対象だけでなく周囲にいる他の船舶が予想通りに航行せず、針路や速度を変えてしまうことも多々ある。その場合は、それらの変化に合わせて新しいルートを考えて操船するが、これらの対応も人間が適宜判断してきた。

 自律運航船になると操船者の部分を機械に置き換えることになる。さらに、センサー情報を受けて、どういった状態なのか理解して、その状態がどういった状況なのかを判断し、その判断から次の操船を計画することになるが、これも従来経験のある操船者が行っていたところをシステムが実施することになる。

 システムは船舶の衝突を避けるために定められた「海上衝突予防法」などの法律に従ってルートを策定することになるが、現実には「法律は人のために作られたものなので非常にあいまいな表現が多い。それをシステムに落とし込むためのパラメータの設定にはかなり時間がかかる」(鈴木氏)という。

 現在、商船三井では自動衝突防止につながる先進的な航行支援システムの研究開発を進めていて、2020年には「避航操船アルゴリズムと避航自動化」に関する共同研究を開始している。こちらも研究が進んでいて、現在は、自船の針路上で相手船との衝突可能性がある「航行妨害ゾーン(OZT:Obstacle Zone by Target)」と呼ばれる場所を自動的に推定するアルゴリズムの改良作業および避航ルートの自動作成に取り組んでいる段階だ。2025年には「トライアルユースができるような段階」(鈴木氏)への到達を目指しているという。


OZT演算アルゴリズム開発および避航航路演算アルゴリズム開発の一環として東京海洋大学「汐路丸」による実証実験を実施。OZTの推定をリアルタイムにできることを確認している[クリックで拡大]

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