ディスクリート設計×マテリアルリサイクルによる東京2020表彰台プロジェクト:環デザインとリープサイクル(4)(4/5 ページ)
「メイカームーブメント」から10年。3Dプリンタをはじめとする「デジタル工作機械」の黎明期から、新たな設計技術、創造性、価値創出の実践を積み重ねてきたデザイン工学者が、蓄積してきたその方法論を、次に「循環型社会の実現」へと接続する、大きな構想とその道筋を紹介する。「環デザイン」と名付けられた新概念は果たして、欧米がけん引する「サーキュラーデザイン」の単なる輸入を超える、日本発の新たな概念になり得るか――。連載第4回では「ディスクリート設計×マテリアルリサイクルによる東京2020表彰台プロジェクト」について取り上げる。
2022年4月「プラスチック資源循環促進法案」施行
東京2020大会が終了し、年が変わった翌2022年4月、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行された。プラスチック製品の設計から販売、廃棄物の処理という全体の流れの中で、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を推し進めるための法律(促進法)であり、その中には“プラスチック回収スキーム”の新たな提案を受け入れることも盛り込まれた(実際に実行するには大臣の認可が必要)。
こうして今後の実践は、オリンピック・パラリンピックといった“国家的行事”から、われわれが日々生きる“日常社会の仕組み”へと場所を移していくことになった。こうした流れを受けて、ここにあらためて、東京2020大会表彰台プロジェクトの良かった点、改善すべき点を整理しておこう。
良かった点:
- 「ゴール(目的)志向の資源回収」は、「資源のクラウドファンディング」とも呼び得る新たな参加型の可能性を開いた
資源循環やリサイクルの分野から見て、本プロジェクトが最も斬新だったのは、おそらく“集める目的(ゴール)を先に明確に提示”してから、使用済み洗剤プラスチック容器の回収活動への参加を広く一般から募ったことであろう。自治体の通常の回収活動でも資源の回収日はあるが、回収された資源がその後、一体どこへ行き、どのように資源が役立てられているのかといった情報は、不透明なままの場合が多い。また、企業による回収ボックスの設置も進んでいるが、その後、それが何に、どのように生まれ変わるのか、明示されていないことが多い(ちなみに、WWDJAPANの記事によれば、「信頼できる業者に引き渡している」といった回答をする企業が多いそうだ)。
それに対して、東京2020大会の表彰台は、資源を集める目的が始めから明確であった。これは参加する市民の目線から言い換えれば、“クラウドファンディング感覚”でコミットできる参加形態であり、逆に運営側も、表彰台製作に必要な材料量を絶対に確保することが求められていたといえる。
そして、実際に出来上がった表彰台が、野老朝雄氏のデザインによる珠玉の美しいデザインであったことは言うまでもない。
改善すべき点:
- 輸送の煩雑化/長距離化と「CO2排出」の問題
他方、改善すべき点も多々残っている。今回はその中の最も重要な1つだけを挙げることにするが、それは「資源循環」と「脱炭素化」という2つの環境への取り組みが、時に“逆進”してしまうという問題である。全国各地から資源を回収し、各地の工場で加工することで資源循環は加速するが、その際に、長距離の複雑な運搬が必要になると、輸送時に発生するCO2が積み重なっていくことで、ある閾値を超え、「実は、焼却した方がCO2排出量が少なかった」という転倒が生じてしまうことが、最近の研究の中から推測されるのである(実際に計量したわけではない)。
現在の環境問題は、気候変動および地球温暖化問題の解決(Cool Earth:脱炭素社会の実現)と、環境汚染問題(プラスチックゴミ問題も含まれる)の解決(Clean Earth:資源循環社会の実現)の2つが、折り重なった状態として定義される。
図6 Cool EarthとClean Earthの問題の「ずれ」と「重なり」[クリックで拡大] ※出所:内閣府資料(https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub4.html)を基に筆者が再構成
この2つの問題系は、その重なり合う領域で2つが同時に解決されることが最も好ましい。しかし、あるケースでは、一方は解決に向かいながらも、もう一方は悪化に向かう、という場合がある。「リサイクルは進むが、脱炭素化は進まない」がその典型例であり、これが「逆進」と呼ばれるケースになる。
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