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M&A予定のスタートアップにおける知的財産権の侵害リスク、どう評価すべきかスタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(15)(2/4 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第15回も前回に引き続き、知財デューデリジェンス(DD)における留意点の解説を行う。

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(3)著作権

 著作権はその権利の発生に登録が不要であることから、特許権などと比較して、権利の有無やその内容が不明確になりがちで、権利侵害の有無を調査することに困難を伴う場合も少なくありません。

 もっとも、自社による著作権侵害のリスクについては、例えば著作権の支分権の1つである複製権の侵害には依拠※6が必要と解されています(最判昭和53年9月7日判時906号38頁【ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件】)。自社における創作活動において、他人の創作物に依拠しないように留意することは有効な対応策の1つといえるでしょう※7。例えば、コンテンツなどを製作する場合に社内規定を作成し、社内において周知する、社内研修を行うなどが対策として考えられます。

※6:依拠とは、他人の著作物に現実にアクセスし、これを参考にして別の著作物を作成することをいうと判断する裁判例がある(大阪地判平成21年3月26日判時2076号119頁【マンション読本事件】)。

※7:もっとも、例えば複製権侵害の有無を判断する場合、有形的再製の度合いがあまりにも強いと依拠が推認されることがあり(東京地判平成4年11月25日判時1467号116頁【暖簾(のれん)事件】)、また複製したことが疑われる著作物に接する機会があったことで依拠が推認される場合もあるので(東京地判平成19年8月30日(平成18年(ワ)5752号)【営業成績増進セミナー事件】)、これらに適切に反証し得るよう、少なくともタイムスタンプ等を活用し、作成日時を確定し、その証拠は確保しておくことが望ましいだろう。

 また、他社が創作したものを利用する場合においては、著作権の侵害物ではないことを調査、確認し、その記録を残す必要があるでしょう。具体的には制作者自身から他人の著作物を利用していないかをヒアリングすることに加えて、成果物の中に他人の著作物を利用したと疑われる不審な点がないかを自ら確認することが挙げられます。

 さらに、第三者の著作物を利用する場合でも、「引用」(著作権法32条1項)に該当するのであれば、著作権者の許諾なしに著作物を使用できます。このため、社内で「引用」に関するマニュアルなどを作成、周知しておくというのも考えられます。なお、同要件については、実務上争いがあるところですが、著作権法32条1項の文言に照らして整理すると、以下のようになります。

  • 公表された著作物であること
  • 引用であること
  • 公正な慣行に合致すること(※引用の際に、引用元の出典を明示すべきとされているのはこの要件に基づくものである)
  • 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であること

 もっとも、裁判例においては、以下の2要件で「引用」にあたるか否かを判断するもの※8や、この2要件に触れることなく、さまざまな考慮要素を挙げて「引用」該当性を判断するもの※9もあります。定説は存在しないといえる状況です※10

  • 自他の著作物が明瞭に区別されること(明瞭区分性)
  • 自他の著作物の間に主従関係が認められること(主従関係性)

※8:該当する裁判例を列挙する。最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁【パロディー事件】、東京高判昭和60年10月17日無体集17巻3号463頁【藤田嗣治事件】、東京地判平成11年8月31日判タ1016号217頁及び東京高判平成12年4月25日判時1724号124頁【脱ゴーダニズム事件】、東京地判平成15年3月28日判タ1166号223頁【国語テスト事件】、東京地判平成16年3月11日判タ1181号163頁【2ちゃんねる小学館事件】、東京地判平成21年11月26日(平成20年(ワ)31480号)【ウエスト・オークション事件】など。

※9:該当する裁判例を列挙する。東京地判平成13年6月13日判タ1077号276頁【絶対音感事件】、知財高判平成22年10月13日判タ1340号257頁【絵画鑑定書事件】、東京地判平成15年2月26日判タ1140号259頁【創価学会ビラ写真事件】、東京地判平成23年2月9日(平成21年(ワ)25767号ほか)【政治家ビラ事件】、東京地判平成24年9月28日判タ1407号368頁【幸福の科学事件】、大阪地判平成25年7月16日(平成24年(ワ)10890号)【岡山県イラスト事件】、東京地判平成25年12月20日(平成24年(ワ)268号)【毎日オークションカタログ事件】、東京地判平成26年5月30日(平成22年(ワ)27449号)【絵画鑑定書事件】など。

※10:東海林保「36 引用の抗弁」『最新裁判実務大系11 知的財産権訴訟』(青林書院、2018年)より。

 ただし、2要件説を採用する裁判例においても、主従関係性の要件の判断の中で、実質的に総合考慮して判断してきたと評価できるため※11、以下に、代表的な裁判例において総合考慮の際に挙げられた考慮要素を紹介します。

知財高判平成22年10月13日判タ1340号257頁【絵画鑑定書事件】

  • 他人の著作物を利用する側の利用の目的、利用の方法や態様
  • 利用される著作物の種類や性質
  • 当該著作物の著作権者に影響を及ぼす影響の有無・程度

※11:東海林保「36 引用の抗弁」『最新裁判実務大系11 知的財産権訴訟』(青林書院、2018年)より。

 この考慮要素(及び各裁判例においていかなる当てはめがなされているのか)や、明瞭区分性要件、主従関係性要件を踏まえて、「引用」に関するマニュアルが作成され、これに従って運用がなされているかを確認することも有益かもしれません。

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