部品メーカーを訪問する重要性を“本当にあった”トラブル事例から学ぶ:リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(6)(3/4 ページ)
中国ビジネスにおける筆者の実体験を交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する連載。第6回は「部品メーカーを訪問する重要性」について解説する。生産開始前に、自分の設計した部品がどこで、どのように生産されるかを知っておくことは非常に重要だが、これを怠ると大きなトラブルに発展してしまうことがある……。
知らない成形メーカーで生産? 生産直前に成形メーカーの変更
続いては、中国駐在中のエピソードである。筆者は日本の設計者から図面データを受け取り、中国の部品メーカーで金型や部品を作製するのが業務であった。このプロジェクトには、金型の発注後から関わることになった。担当した部品は、20インチの医療用モニターの樹脂製ベゼル(正面の枠)である。
20インチというサイズから800t(トン)の射出成形機が必要であることが分かっていた。金型が出来上がったという情報が入ったため、数日内に日本にいるこの部品の設計者と成形メーカーを訪問することになった。
筆者が、購買部に成形メーカーの会社名を確認したところ、過去に一度だけ仕事をしたことがあり、パチンコの部品を主に扱う最大400tの射出成形機を持つ企業であった。このとき、800tの射出成形機は持っていなかったはずだと筆者は疑問に思ったため、購買部の担当者にその確認をした。すると「800tも持っているから大丈夫」との回答だった。筆者は、その成形メーカーとは既に1年以上関わっていなかったため、最近800tの射出成形機を購入したのであろうと思った。
別の成形メーカーに連れて行かれる
この部品の設計担当者が日本から中国に来て、一緒に成形メーカーを訪問した。クルマで到着すると、日本語通訳兼営業担当は「別の工場に行く」と言うのだ。どうやら、800tの射出成形機はその成形メーカー(成形メーカーA)にはなく、別の場所にあるらしい。工場の敷地面積の問題もありやむを得ないのだろうと思い、クルマで別の成形メーカー(成形メーカーB)に向かうことになった。
このとき、筆者の心の中で何か腑に落ちないものを感じたため、これから行く成形メーカーBはどんな会社なのかといろいろ聞いてみた。だが、営業担当は「関連会社だ」と言ったり、「子会社だ」と言ったりし、その回答があやふやであったのだ。筆者の不信感はさらに募りつつ、ようやく成形メーカーBに到着した。
クルマを降りた筆者の目に飛び込んできたのは、受付にあった知らないメーカーの名前だ。「これは絶対に何か隠している」と確信し、営業担当をさらに問い詰めると、この会社は成形メーカーAから独立した社員が経営する、“全くの別会社”であることが分かったのだ。要するに、仕事を回してあげていたのである。
筆者の会社は、成形メーカーBとは取引していない。しかし、成形メーカーAを商社だと捉えれば、成形メーカーBで生産することに問題はないと考えることもできた。金型は既に出来上がり、成形メーカーBで1stトライ(金型ができて初めての成形)の準備は終わっていた。生産開始まで後1カ月に迫っており、今からの成形メーカーの変更は考えられなかった。日本からの設計者と相談し、このまま進めるしかないと決めかけたところで、設計者があることに気付いたのだ。
それは、このベゼルは医療用製品の部品なので、“どこのメーカーで生産したか分かるように部品にメーカーコードの刻印が必要”ということだった。メーカーコードは認定された成形メーカーしか持つことはできない。一応、確認はしてみたが、この成形メーカーBはその認定は受けていない。よって、成形メーカーBでこの部品を成形することはできないのであった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.