部品メーカーを訪問する重要性を“本当にあった”トラブル事例から学ぶ:リモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(6)(1/4 ページ)
中国ビジネスにおける筆者の実体験を交えながら、中国企業や中国人とやりとりする際に知っておきたいトラブル回避策を紹介する連載。第6回は「部品メーカーを訪問する重要性」について解説する。生産開始前に、自分の設計した部品がどこで、どのように生産されるかを知っておくことは非常に重要だが、これを怠ると大きなトラブルに発展してしまうことがある……。
生産開始前に、自分の設計した部品がどこで、どのように生産されるかを知っておくことは非常に重要である。今回は、「どこで」の確認を怠った結果、大きなトラブルに発展してしまった2つのエピソードを紹介する。
医療用モニターのリアカバーに亀裂が入る
ある日、「病院の手術室にある医療用モニターのリアカバーのビス固定部に亀裂が入っている」と連絡があった。この医療用モニターは生産開始から2年ほどが経過していたものだが、つい最近納入されたばかりのモニターのリアカバーに亀裂が発生したというのだ。
実際に確認してみると、樹脂製のリアカバーがしっかりと嵌合されていないことが見た目でも分かり、さらによく見てみると、ビス固定部に亀裂が入っていた。このリアカバーは中国で生産していたため、中国から帰任したばかりの筆者がこの問題の解決に当たることになった。
この製品はODM(設計製造委託)であったため、筆者はまず台湾にあるODMメーカーから情報を仕入れることにした。リアカバーがどこの部品メーカーで生産されているか、部品メーカーの変更や射出成形機の変更、さらには材料の変更はなかったかなど、“最近の変化点”を探ることにした。しかし、いろいろと確認してみたが、「2年前から変更は何もしていない」という回答であった。
もしかしたら設計的な問題で、ビス固定部の強度がそもそも足りていなかった可能性もある。たまたま、ここ2年間は過度の衝撃が加わらず、問題が起こらなかっただけかもしれない。
そこで、最新のリアカバーを入手して、社内で規定されている強度試験を行うことにした。この2年間に材料の組成に何か変化があった可能性も考え、その比較のため会社に保管してあった2年前のリアカバーも一緒に試験を行った。さらには、想定以上の衝撃が加わった可能性も考え、社内規定の約2倍の厳しさでの強度試験も実施。だが、全ての試験でリアカバーには何も問題は起こらなかった。
強度試験では何も原因が分からなかったので、次に材料分析を行うことにした。まずは、破断面解析を行った。亀裂の入ったリアカバーを入手し、どのような衝撃の加わり方をしたかを調べたのだ。だが、その解析からは亀裂の発生の原因を見つけることはできなかった。
赤外線分光分析
次に、材料に含まれる成分を調べるため、赤外線分光分析を行い、亀裂の入ったリアカバーと最新のリアカバーを比較した。
すると、亀裂の入ったリアカバーから“異物”が見つかったのだ。樹脂材料の専門家とリアカバーの材料を製造している企業の技術者に問い合わせたところ、その異物は正規の材料には入っているはずのないものであり、さらには材料の強度を劣化させる作用があることが分かった。
どこで、この異物が混入されたのか、またなぜ生産が始まって約2年が経過した今、この問題が起こったのかが疑問であった。もちろん、ODMメーカーは「何も知らない」の一点張りである。中国では「サイレントチェンジ」といって、部品の生産を依頼した側は何も変更指示をしていなく、また何の変更連絡も受けていなのに、部品や材料が変化することがある。今回の問題も、最近何かが変わったと考えるしかない……。
日本にいてはこれ以上の情報が得られないため、急きょ台湾のODMメーカーを訪問することにした。
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