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「電源の配線レスを当たり前に」業界標準狙うエイターリンクが描く未来ワイヤレス給電

IoT活用が進みネットワークの無線化が広がる中、最後に残された配線が電源供給である。この電源無線化に挑戦するのが、マイクロ波による長距離ワイヤレス給電技術を開発した米国スタンフォード大学発のスタートアップ企業エイターリンクだ。ワイヤレス給電技術の業界標準化を狙う同社の創業者である、代表取締役 CTOの田邉勇二氏と代表取締役 COOの岩佐凌氏に、目指す姿について聞いた。

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 IoT(モノのインターネット)活用があらゆる産業で広がりを見せている。さまざまなモノがデータを送受信し、そのデータを活用することでより効率的で利便性の高い社会を実現する超スマート社会には、断線の心配がなく配線の負荷がない「無線化」が大きなポイントとなる。通信で無線化が進む中、最後に残された領域として注目されているのが「電源供給」の無線化だ。

 配線なしで給電を行える「ワイヤレス給電」技術は既に製品化が進んでいるが、従来は近距離で行うものが多く、無線の必然性がないものも多かった。そのため、特に産業用途では普及が進んでいなかった。こうした状況の打破に挑んでいるのが米国スタンフォード大学発のスタートアップ企業エイターリンクだ。

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エイターリンクの代表取締役 COOの岩佐凌氏(左)と代表取締役 CTOの田邉勇二氏(右)

体外からバイオメディカルインプラントデバイスに給電

 エイターリンクは、マイクロ波ワイヤレス給電システム「AirPlug」を製品化している。10〜20mの距離で、1〜2mWオーダーの電力をワイヤレスで給電することが可能で、角度依存も少ないため可動部のセンサーなどでも安定的に電力を供給できる。異なる環境に合わせたアンテナ形状なども用意している。環境発電技術などに対して、より大きく持続的な電源を供給できるため、5m秒毎のデータ通信など、リアルタイムの情報取得にも活用できる。

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ワイヤレス給電技術を採用した心臓ペースメーカー。小さいため、右心室、右心房、左心房に埋め込み、それぞれをワイヤレスで駆動させることに成功している[クリックで拡大]

 エイターリンクのワイヤレス給電技術は、同社の代表取締役 CTOの田邉勇二氏がスタンフォード大学で行ってきた研究が基盤となっている。田邉氏は「薬に置き換わる電気刺激器(Electroceuticals)」をテーマにバイオメディカルインプラントに関する研究開発を、同大学Electrical Engineering学部 准教授のエイダ・プーン氏(現エイターリンク アドバイザー)などとともに行っていた。ただ、体の中に入れるデバイスがバッテリー駆動の場合、デバイスそのものがバッテリー分大きくなる他、バッテリー交換が患者に大きな負担となる。そこで体外から給電できる技術の開発を進めた。メタサーフェス技術を活用し電磁波をコントロールして効率的に給電を行えるマイクロ波ワイヤレス給電送信機を開発し、心臓ペースメーカーの完全ワイヤレス駆動などを実現してきた。

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エイターリンク設立の経緯について説明する田邉氏

 ただ、メディカル領域のビジネス化には時間がかかる。ちょうどその時、現在エイターリンクで代表取締役 COOを務める岩佐凌氏と出会った。岩佐氏は当時商社に勤めておりFA領域などの知見があったため、ワイヤレス給電技術を水平展開しながらビジネス化する発想が生まれた。そこでまず、ワイヤレス給電に関心を持ってくれそうな企業約500社にアプローチし、最終的にメディカル領域に加え、FA領域、ビルマネジメント領域をターゲットとし、2020年8月にエイターリンクを起業した。

 FA領域では、スマート工場化が進んでおり、設置されるセンサーのバッテリー交換や配線の負荷なども高まっているため、これをワイヤレス給電で解決することを目指す。無線化することで配線やバッテリー交換の負荷低減に加え、従来設置できなかった位置へセンサーの設置が可能となり、見えなかった課題やその解決策などを把握できるようになる。

 一方、ビルマネジメント領域では、環境センサーや人の位置情報センサーのワイヤレス給電システムを提供する。「例えば、今までは配線が必要になるため、エアコン近くや天井、壁際のようなところでしか環境センサーを設置できませんでした。そのため、人の体感と異なるケースが多くありました。ワイヤレス給電により、人の近くにセンサーを設置できるようになり、人が快適に感じられるようにリアルタイムにエアコンを調整できるようになります」と岩佐氏は語っている。既に2020年11月には竹中工務店と実証実験を実施し、タスクアンビエント空調の実現に向けた成果を示すことができたとしている。

photophoto ビルマネジメント領域で活用されるワイヤレス給電による環境センサーのプロトタイプ。机の裏に設置した環境センサー(左)に天井に設置された送信機(右)から配線なしで電力供給を行っている[クリックで拡大]

ワイヤレス給電のデファクトスタンダードに

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今後のビジネス展開について語る岩佐氏

 エイターリンクの現在のビジネスは、パートナー企業とともにワイヤレス給電を活用したそれぞれの業界の課題解決策を試作品の形にまで持っていくところで成り立っている。ただ、それぞれの産業に合わせ起業前から多くの企業へのアプローチを進めてきたため、初年度から黒字を続けてきており、2022年7月までの第2期の利益も初年度に比べて3〜4倍になった。現在は約10社とプロジェクトを同時進行中だが、今後は実際に同社の「AirPlug」を採用した製品が市場に出るフェーズとなる。「総務省が省令改正案(電波法施行規則等の一部を改正する省令)を示し、いよいよマイクロ波によるワイヤレス給電を製品として提供できる環境が整ってきました」(岩佐氏)。

 エイターリンクでは、自社開発のワイヤレス給電送信機と受電モジュールを開発しており、ビルマネジメント向けの送信機については、自社設計製品を委託生産している。「今までは構想を形にする段階でしたが、これからは製品として安定的に提供し続けていくフェーズにシフトします。そのため、完成品を作り切るために必要なプロダクトマネジャーや、デジタル系回路を組めるファームウェアエンジニアなどを今募集しているところです」(田邉氏)。さらに、2023年には米国に2拠点、欧州にも拠点を用意し、30カ国への輸出も開始する計画だ。同社社員は、創業時は4人だったが現在は約20人、そして今後は1年間で100人を採用する計画としている。

 また、AirPlugの業界標準化も推進する。産業ごとに求められる要件に合わせたワイヤレス給電技術を投入しデファクトスタンダードを狙うとともに、これらの実績を基に、IEEEなどに対する働きかけも行い、デジュール化も同時進行で行う。岩佐氏は「デジタル化があらゆる産業で進む中で、センサーの数は爆発的に増えます。圧倒的に数が増え、配線やバッテリー交換では賄いきれなくなるため、電源供給手段はワイヤレス給電以外ありません。既に国内での働きかけは行い、総務省の省令改正につなげることはできました。今後はグローバルルールの創出にも積極的に参画していきます」と考えを述べている。

 さらに、田邉氏はその先の姿も描いている。「ハードウェアはいずれコピーされます。先に先に進むしかありません。まずはハードウェアで形を示しつつ、送信機側では同時に給電状況や機器などのデータ取得を行える仕組みを構築しています。これらを組み合わせることでデータビジネスへの展開も計画しています。ただ、そのためにはより早く市場に普及させ、定着させることが重要だと考えています」と田邉氏は語っている。

 あらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む一方、あらゆる現場が増える「配線」に大きな悩みを抱えているのも現実だ。ワイヤレス給電技術はその解決に大きな役割を果たすとみられており、先行して実績を積み上げるエイターリンクへの期待は大きい。

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提供:エイターリンク株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2022年10月31日

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