今も働き続ける「はやぶさ2」、プラス10年以上もの長旅に耐えられるのか〜拡張ミッション【前編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(20)(2/4 ページ)
2020年12月に地球へ帰還し、小惑星「リュウグウ」からのサンプルリターンというミッションを完遂した小惑星探査機「はやぶさ2」。しかし、はやぶさ2の旅はまだ終わっていない。現在も「拡張ミッション」となる2つの小惑星の探査に向けて旅を続けているところだ。果たしてはやぶさ2は、追加で10年以上もの長旅に耐えられるのだろうか。
リアクションホイールはもつのか
拡張ミッションでまず気になるのは、機体の状態である。はやぶさ2のミッション期間は、本来6年間。各機器は最低限、その間に壊れないよう考えられているが、この先は設計寿命を超えた旅路となる。設計寿命が来たからといってすぐ壊れるというものではないものの、いつ何があってもおかしくないとはいえる。
はやぶさ2は地球帰還まで、大きなトラブルは特になかったのだが、その後、「分離カメラ制御部(CAM-C)」と保温ヒーターの一部に故障が発生した。幸い、どちらも拡張ミッションでは大きな支障にならないと見られているものの、今後も、こういった故障は増えていくだろう。全く油断はできない。
機械は一般的に、可動部から壊れやすい。探査機には、姿勢制御に使うリアクションホイール(RW)という装置があるのだが、この中身は高速に回転する円盤だ。寿命を考える上で、真っ先に心配するのはここだろう。
はやぶさ初号機は、映画にもなったように、成功はしたものの、数々のトラブルに見舞われた。その中でも、最初に壊れたのがリアクションホイールだった。探査機は、電力を得るためにも、地球と通信するためにも、軌道を変えるためにも、姿勢の正確な制御が欠かせない。まさに、命に直結する重要な装置なのだ。
初号機での故障は初号機特有の事情に由来するため、はやぶさ2で同じ問題が起きる心配は無用なのだが、これまでのところ、故障しそうな兆候は特に見られていないという。また、重量の制約が非常に厳しかった初号機では、リアクションホイールは3台しか搭載できなかったが、はやぶさ2では4台と、冗長性を持たせていることも安心材料だ。
通常、4台のリアクションホイールを使うときは、ピラミッド型のようなスキュー(斜め)配置にすることが多い。これは、4台中のどれか1台が壊れたとしても、残りの3台を連携させて3軸制御は維持できるという考えの配置である。
はやぶさ2はちょっと変わっていて、XYZの直交配置に加え、Z軸のみ2重になっている。この配置だと、X軸やY軸が壊れた場合、残りのリアクションホイールでその軸の制御はカバーできなくなってしまうが、Z軸だけはかなりロバストになる。
これは、初号機の経験を設計に反映したものだ。初号機で壊れたのは、まさにX軸とY軸の2台。残りはZ軸の1台だけとなったものの、それでも、さまざまな工夫によって、初号機は地球に帰還することができた。Z軸さえ無事ならなんとか戻って来られる。Z軸のみ2台構成としたのは、それが分かっているからだ。
とはいえ、なるべく壊れないに越したことはない。リアクションホイールは、回転数が低いほど延命効果があるとのことで、通常は3000±500rpm程度で運用していたのに対し、拡張ミッションでは、これを1000rpmや2000rpmまで下げた。
さらに、長期間イオンエンジンを運転しないときなどは、3軸制御からスピン安定に切り替え、リアクションホイールを停止するなどして、さらなる延命を図るという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.