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頼るべき“ルール”見えぬ脱炭素、国内製造業は立ち止まらずに進めるのか製造業×脱炭素 インタビュー(1/3 ページ)

ここ最近、大手製造業各社が脱炭素に向けた挑戦的な目標設定を次々に打ち出している。一方で、「では実際に脱炭素を進めればいいのか」と悩む企業も少なくない。既存のGHG削減や省エネ化といった施策に加えて何をすべきなのか、そもそも業界共通の制度やルールづくりが進まない中、何をすればよいのか。脱炭素実現に向けた国内製造業の“現在地”について話を聞いた。

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 2050年、あるいはさらに前倒しして2040年までにカーボンニュートラル達成を目指す――。ここ最近、大手製造業各社が、脱炭素に向けた挑戦的な目標設定を次々に打ち出している。目標達成に向けて、さらなる省エネや再生可能エネルギーの活用方針を掲げる他、既存設備の電化や新技術開発、導入検討を進める動きも活発に進んでいるように見える。

 その一方で、「では実際にどうやって脱炭素を進めればいいのか」と悩む企業も多い。そもそも製造業はこれまでにも、さまざまな形でGHG(温室効果ガス)削減や省エネに取り組んでいる。そうした方向で排出量を劇的に削減することは難しいという指摘もある。加えてCO2排出量の算定方法などに関して、業界共通の制度やルールづくりも明確になっているとは言い難く、展望が見通しにくい状況が続いている。

 脱炭素実現に向けた国内製造業の“現在地”について、日立ソリューションズ 産業イノベーション事業部 エンジニアリングチェーン本部 第3部 部長の小沢康弘氏に話を聞いた。

「誰がボールを持つ?」で立ち止まる

MONOist 現時点での国内製造業における脱炭素の取り組みについて、進み具合をどのように見ていますか。


日立ソリューションズ 産業イノベーション事業部 エンジニアリングチェーン本部 第3部 部長の小沢康弘氏 出所:日立ソリューションズ

小沢康弘氏(以下、小沢氏) 国内では、特に大手製造業を中心に加速していると感じる。国際非営利団体のCDPが気候変動問題に対する企業姿勢などを評価する「CDP 気候変動レポート 2021」において、日本企業は最高評価のAリストに56社が選定されている。国や地域別の企業数では最多となる選出数だ。

 同レポートはCDP質問書の回答結果に基づいて作成されている。2021年までは500社を対象に質問を行っていたが、2022年からは東証プライム市場に上場している1841社に対象を拡大する見通しだ。

 さらに日本取引所グループ(JPX)によるコーポレートガバナンス・コード改定によって、東証プライム市場の上場企業は「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に基づく情報開示が求められるようになった。上場企業はネットゼロ達成時期の目標、CO2削減目標や実現に向けた戦略づくり、取り組みの進捗状況、カーボンプライシングへの対応に関する質問に回答しなければならない。こうした外部団体からの要請に基づいて、脱炭素の取り組みを本格化する流れが、今後さらに強まっていくと思われる。


企業に求められるカーボンニュートラルへの対応[クリックして拡大] 出所:日立ソリューションズ

 メーカーと比べるとサプライヤーは、一部の大手企業を除いて情報開示の動きはまだ緩やかに見受けられる。しかし、東証プライム市場などの影響を受けて、いずれは同様の取り組みが求められるようになるはずだ。

MONOist 脱炭素に関して挑戦的な目標を掲げる企業も急増しています。

小沢氏 しかし、実際に気候変動対策に取り組もうとしても、「では誰がボールを持つか」と迷う企業も少なくない。対策に当たっては、環境部門に調達部門、生産部門、販売部門、総務部門とさまざまな部署部門が連携する必要がある。だが、日本企業はCO2排出対策をコストと捉える意識がいまだに根強い。対策プロジェクトを進めても、現行業務の隙間時間に取り組まざるを得ず、リーダー系統の整備はおろか、メンバー集めでも行き詰まってしまう、といった状況が危惧される。

 組織づくりの問題をクリアしたら、今度はGHG(温室効果ガス)の排出量算出ルール策定や、具体的な削減施策の立案、ルールにのっとったGHG排出量の可視化や予測、財務情報としての開示といったステップを適切に実行する必要がある。この辺りはITシステムが強く生きる領域で、特に予測プロセスなどは今後重要性を増していくだろう。ただ、そこに行きつく前に「結局何から手を付けるべきか」で止まってしまうケースもある。

 例えば、2050年までにカーボンニュートラル達成を目指すなら、2030年までに自社排出量を何パーセント削減するなど目標を立てる。また、サプライヤーにGHG排出量の情報開示や削減要請を出すかなど、具体的に詰めていく必要がある。ここで立ち止まってしまうと、気候変動を巡って情勢が刻一刻と変化しする世の中で、気付いた時には手遅れになっていた、となりかねない。


カーボンニュートラルに関する企業課題と必要な対策[クリックして拡大] 出所:日立ソリューションズ

 なお補足すると、業界によって進捗度合いに差はあり、例えば自動車業界は削減に向けた取り組みが特に活発で、サプライヤーへのCO2削減、可視化要請も進んでいる。こうした動きは他業界にもやがて広がっていくだろう。

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