スマート工場化の効果を経営陣にどう示すべきか:いまさら聞けないスマートファクトリー(17)(1/3 ページ)
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。第17回では、スマートファクトリー化でよく課題だと挙げられる「経営陣の巻き込み」について紹介します。
スマートファクトリー化は製造業にとって推進すべき大きなテーマであるにもかかわらず、なかなか成果が出ない課題を抱えています。本連載では、スマートファクトリーでなかなか成果が出ないために活動を縮小する動きに危機感を持ち、より多くの製造業が成果を得られるように、考え方を整理し分かりやすく紹介しています。前回からは、スマートファクトリー化で難しいと捉えられている「組織の巻き込み」について紹介していますが、今回は読者調査などでも「推進の課題」としてよく挙げられている「経営陣の巻き込み」の問題について解説していきます。
本連載の趣旨
本連載は「いまさら聞けないスマートファクトリー」とし、スマートファクトリーで成果がなかなか出ない要因を解き明かし、少しでも多くの製造業がスマートファクトリー化で成果が出せるように、考え方や情報を整理してお伝えする場としたいと考えています。単純に解説するだけでは退屈ですので、架空のメーカー担当者を用意し、具体的なエピソードを通じてご紹介します。
架空企業の背景
従業員300人規模の部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長である矢面辰二郎氏はある日、社長から「第4次産業革命を進める」と指示され途方に暮れます。そこで、第4次産業革命研究家の印出鳥代氏に話を聞きに訪問し、さまざまな課題に立ち向かいます。
本連載の登場人物
矢面 辰二郎(やおもて たつじろう)
自動車部品や機械用部品を製造する部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長兼IoTビジネス推進室室長。ある日社長から「君、うちも第4次産業革命をやらんといかん」と言われたことから、どっぷりのめり込む。最近閉塞感にさいなまれている。
印出 鳥代(いんだす とりよ)
ドイツのインダストリー4.0などを中心に第4次産業革命をさまざまな面で研究するドイツ出身の研究者。インダストリー4.0などを中心に製造業のデジタル化についてのさまざまな疑問に答えてくれる。サバサバした性格。
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
前回のあらすじ
さて、前回のおさらいです。第16回の「スマート工場化の『現場の巻き込み』問題をどう解決するか」では、スマートファクトリー化でよく困る点として挙げられる製造現場をどのように巻き込んでいくかということを解説しました。
スマートファクトリー化に限らずDX(デジタルトランスフォーメーション)などデジタル技術が絡む取り組みの中では、実証ばかりが増えて、そこから先に進まない“PoC(概念実証)の壁”が存在するといわれています。従来にない新しい取り組みですので、実証が重要であることは間違いありませんが、それを現場の具体的な運用に落とし込めなかったり、落とし込んだ場合に期待する効果と違ったりするケースがよく見られます。
これらを乗り越えるためには、現場を巻き込んで実際の業務プロセスに組み込む形まで作り込んでいく必要があります。そのためにはパターンがいくつかあると印出さんは指摘していました。
例えば、1つ目は「装置の見える化」などのように、システム化されたものを「うまく使いこなす」ということを現場に求めるパターンね。これは効果と運用の方法をうまく伝えて習得させることが重要ね。
スマートファクトリー化により、現場で具体的な成果を生み出していくには、KPI(重要業績評価指標)を定めた上で、現場作業の負荷を抑えた形で自然に組み込んでいくことが理想です。実証で止まるパターンは、このどちらかに無理があるために進まないのだと見ています。これを起こさないためには現場での実際の業務プロセスや負荷などを把握するコミュニケーションが重要になってきます。
そして、もう1つのパターンが、「現場でデジタル技術を活用したアイデアが出ない」という問題を、デジタル技術の基本などの教育を進めることで解決するというものです。
例えば、変種変量生産など、現場で作るモノが日々変わるような製造現場では「こうすればもっと生産性が上がるのに」という気付きは、現場作業を実際に行っている作業者以外はあまり思い付かないわよね。でも、現場の担当者は「デジタル技術」への知見もない場合が多くてデジタル技術による改善の発想が生まれない場合が多いように見えるの。そこを引き出す工夫が必要だということね。
実際にスマートファクトリー化を次々にスパイラルアップしている企業では、現場に対するデジタル技術の座学を含めた教育などを行っているところも多くあります。これによりデジタル技術の活用をイメージできれば、新たな発想の改善を生み出すことができると考えています。
こうした業務での具体的な運用面での仕組み作りと、改善の発想につながる教育などの取り組みを、現場とコミュニケーションを緊密に行って進めていくことが「現場の巻き込み」実現につながるということでした。
さて今回は「現場の巻き込み」と対局に位置する「経営の巻き込み」について解説していきます。スマートファクトリー推進者にとっては悩みの種のようで、MONOistの読者調査やイベントでのアンケートなどでも毎回上位に入る質問となっています。抜本的な解決方法は示すことはできませんが、かみ砕いて説明していきます。
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