産業用イーサネットのギガビットとTSNへの対応はどうなる? 5団体が議論:産業用ネットワーク技術解説(2/3 ページ)
日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)がオンラインセミナー「TI Live! Tech Exchange - TI Japan Industrial Day」を開催。本稿では、同社 社長のサミュエル・ヴィーカリ氏の基調講演と、CC-Link協会、EtherCAT Technology Group(ETG)、ODVA、日本プロフィバス協会、MECHATROLINK協会の代表が参加して行われたパネルディスカッションを紹介する。
産業用ネットワークの65%を占めるようになった産業用イーサネット
パネルディスカッションには、日本プロフィバス協会 副会長の若命敬一氏、ODVA TAG Japan 事務局の今井敬祐氏、ETG 代表・シニアテクノロジストの小幡正規氏、CC-Link協会 事務局長の川副真生氏、MECHATROLINK協会 事務局代表の下畑宏伸氏が参加。モデレーターは日本TI 営業・技術本部の松本英昭氏が務めた。
産業用イーサネットの導入は加速している。2018年にはシリアル接続のフィールドバスを逆転し、現在は産業用ネットワークの65%を産業用イーサネットが占めるようになっている。
パネルディスカッションの前半では、日本プロフィバス協会のPROFIBUSとPROFINET、ODVAのEthernet/IP、ETGのEtherCAT、CC-Link協会のCC-Link、MECHATROLINK協会のMECHATROLINKなど、各組織と団体の活動内容やそれぞれが手掛ける産業用イーサネット規格についての説明が行われた。
日本プロフィバス協会の若命氏は、PROFIBUSとPROFINETを管理するPI(PROFIBUS&PROFINET International)の参加企業数が世界で1700以上となっており、PROFIBUS/PROFINETなどの累計出荷台数が2020年に前年比730万台増の3970万台となるなど急増していることを紹介。また、PIは、センサーやアクチュエーターとの接続インタフェースとして採用が広がっているIO-Linkも手掛けている。
ODVA TAG Japanの今井氏は、ODVAが世界の主要な産業用オートメーション企業で構成される国際的な非営利団体で、CIP(Common Industrial Protocol)に基づく通信技術を開発してきたことを紹介。現在は、CIPネットワークのさまざまな仕様を包含する形でイーサネットベースのEthernet/IPを推進しており、2015年に産業用イーサネット市場で25%のシェアを獲得するなどリードする立場にある。また、700社のベンダーが製品を投入しているという。
ETGの小幡氏は、無料でメンバーシップに参加できることもあり、ETGが世界最大のフィールドバス/産業用イーサネットの団体であることを紹介。メンバー数は6580社に上る。2020年のサーボドライブで用いられている産業用イーサネット市場のシェアも26%でトップとなっている。専用のスレーブコントローラーを用いることで高速の通信を特徴としており、近年は従来の100Mbpsから1Gbpsや10Gbpsへの帯域の拡張も進めているという。
CC-Link協会の川副氏は、2000年に発表したシリアルネットワークのCC-Linkを第1世代として、2007年に発表したイーサネットベースのCC-Link IEが第2世代になり、2018年に発表したTSNの技術を取り込んだCC-Link IE TSNにより第3世代になったことを紹介。CC-Link IE TSNは、高性能が求められる場合は専用ASICなどを用いたハードウェアベースで、そうではない場合はソフトウェアベースでという多様な開発手法を用意していることも特徴だ。また、CC-Link協会の参加企業は2021年時点で4000社に達したという。
MECHATROLINK協会の下畑氏は、1980年代後半に安川電機が開発したMECHATROLINKが2003年に仕様公開され、その推進団体として同協会が発足したことを紹介。最新規格のMECHATROLINK 4はイーサネットベースであり、従来比で4倍の通信性能を持つ。MECHATROLINKはフィールドネットワークの中でも最下層で用いられることが多く、工作機械や半導体製造装置の内部ネットワークに採用されている。2021年3月末時点で、メンバー数は3463社、MECHATROLINKのASICの出荷ノード数は947万個となっている。
ギガビット対応は各団体で濃淡
パネルディスカッションの後半では、各産業用イーサネットにおける帯域1Gbps以上のギガビット対応や、TSNへの対応などについての議論が行われた。
ギガビット対応については、各社から以下のようなコメントがあった。
CC-Linkは、2007年のCC-Link IEからギガビット対応しており、既に市場でも一定の浸透が進んでいるという。「液晶パネルや自動車などの業界で利用されている。コントローラー間で多くのデータをやりとりする必要がある場合にはやはりギガビット対応が求められる。CC-Link IE TSNを投入してから、スマート工場に向けて現場から多くのデータをリアルタイムに収集したいという要望があり、今後は1Gbpsが主流になるのではないか。映像データに対する要求もあり将来的には10Gbpsも下に入ってくるだろう」(川副氏)。
ETGは、1Gbpsに対応するEtherCAT Gの規格を策定中だ。「ノイズ対策の問題もあり、豊富な100Mbpsのデバイスを使いつつ幹線だけをEtherCAT Gでギガビット化する手法が有効ではないかと考えている。ネットワークの全てにEtherCAT Gを適用すると速度は従来比で7倍になるが、幹線のみにEtherCAT Gを適用する手法でも速度は従来比で5倍になる」(小幡氏)。
PROFINETとEthernet/IPは、規格認証では100Mbpsが中心であり、現時点でギガビット対応はサポートしているもののオプション的な扱いになっている。「産業用ネットワークでは1ケーブルで全てのデータのやりとりをしたいという要望があり、映像データなども視野に入れると、積極的にギガビット対応を進めていく必要があるだろう」(若命氏、今井氏)。
MECHATROLINKは装置内での利用が多いこともあり100Mbpsでの利用が主流であるものの、1Gbpsに対応した開発を行うための準備を進めているという。「ただし、コストやノイズの問題もあり、ユーザーからの要望も挙がっていないので、対応を急ぐ状況ではない」(下畑氏)。
なお、モデレーターの松本氏によれば、コントローラーICのコスト感としては10Mbps/100Mbps対応であれば1米ドル以下のレベルになるものの、ギガビット対応の場合は数米ドルになるという。これに接続のためのケーブルも加えると、産業用ネットワークをギガビット対応にするコストはまだ高いと言えそうだ。
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