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スマート工場で期待されるローカル5Gの安全な運用には何が必要なのかいまこそ知りたいローカル5Gのセキュリティ(前編)(1/3 ページ)

製造業での活用が期待されているローカル5Gを安全に運用していくために、サイバーセキュリティの観点で押さえておくべきポイントを前編と後編の2回に分けて解説する本連載。前編では、ローカル5Gの特徴や製造業のユースケース、モバイル通信におけるセキュリティリスクについて説明する。

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 2018年9月、経済産業省は『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜』※1)を発表した。その中で「2025年の崖」を克服するには、「あらゆる産業において、新たなデジタル技術を活用して新しいビジネス・モデルを創出し、柔軟に改変できる状態を実現することが求められている」とし、そのためには、ユーザー企業によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が必要不可欠であり、企業活動の中で発生するさまざまなデータの利活用が鍵となると述べている。

※1)出典:経済産業省『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜

 その後、日本国内においては、2020年3月以降のモバイル通信事業者による5Gサービスの商用化を皮切りに、ローカル5Gを含む5G技術の活用によるさらなるDX推進が、総務省の「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に関わる実証事業も含め、多くの企業で進められている。本連載では、この5G技術を活用したシステムであるローカル5Gを安全に運用していくために、サイバーセキュリティの観点で押さえておくべきポイントを、前編と後編の2回に分けて解説する。

ローカル5Gとは?

 ローカル5Gのセキュリティについて話をする前に、5G技術の特徴やローカル5Gの定義およびその適用範囲について簡単に触れていく。

 5Gとは5th Generationの略称で「第5世代移動通信システム」のことである。ここで言う移動通信システムとは「ユーザーが移動しても通信を継続して行える通信システム」のことを指す。5Gは「超高速・大容量」「超高信頼・低遅延」「多数同時接続」の3つが特徴として挙げられる。これらの特徴により、PCやモバイル端末だけでなく、IoT(モノのインターネット)デバイスなどのさまざまな電子機器がネットワークに接続されるようになり、自動車、医療、農業など、大容量のIoTデータを活用したリアルタイム遠隔制御や自動制御など、新たなユースケースの創出が期待されている。そのため5Gは、IoT機器を活用したDXを推進するモバイル通信技術として注目されているのである。

「第5世代移動通信システム」の概要
「第5世代移動通信システム」の概要[クリックで拡大]

 この5Gを自らの建物内や敷地内といった特定のエリア限定で活用するのが「ローカル5G」である。ローカル5Gは、通信事業者が提供するパブリック5Gとは異なり、ユースケースに応じてネットワークを自由に設計、構築できる特徴があり、民間企業や自治体が自ら無線局免許を取得し、自営により5Gシステムを運用する。

 そのため、企業や自治体が活動を行う中で、通信事業者が提供するパブリックネットワークが災害などによって障害が発生した場合でも、その影響を受けることなく自身のローカル5Gを利用できる。加えて、パブリックネットワークから隔離されているため、パブリックネットワーク上の通信量に左右されることなく、5Gの特徴である超高速・大容量、超高信頼・低遅延、多数同時接続を独立して活用できる点が、ローカル5Gの強みとなる。

 企業や自治体は、このローカル5Gを活用してこれまで有線ネットワークで構築していたシステムを無線化することにより、物理的な制約に影響を受けない柔軟な機器の設置や移動を実現できる。リアルタイムで遠隔地に設置した機器の操作なども可能になるので、コスト削減とともにビジネス活動や社会活動のより柔軟な設計を行えるようになることが期待されている。

製造業のローカル5G活用のユースケース

 では、ローカル5Gを活用したユースケースはどのようなものが考えられるだろうか。ここでは、主に製造業におけるローカル5Gシステムの導入を想定して、期待されているユースケースを考えてみる。

 工場などの製造現場では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などを発端とした予測困難な需要変動の影響や昨今ニーズが高まっている多品種少量生産の意向を受け、これまで以上に製造ラインの移動やレイアウト変更への要求が高まっている。この製造ラインのレイアウト変更に対する自由度を上げていくに当たって、有線ケーブルによる機器のネットワーク接続が柔軟なレイアウト変更の足かせになっているケースが多く見受けられる。このような環境にローカル5Gを敷設することで、製造ラインを構成する機器のネットワークの無線化が実現でき、有線ケーブルでは実現が難しかったラインレイアウトの変更にも容易に対応できる。結果として、製造ラインの稼働率を上げることが可能となり、工場全体の生産性向上につながる。

ローカル5Gへの期待と想定利用シーン
ローカル5Gへの期待と想定利用シーン[クリックで拡大]

 また、5Gの特徴である超高速・大容量や超低遅延を活用することで、4K/8K高精細カメラを利用した製造ライン上での製造品への自動品質検査による品質のばらつき改善や、AGV(自動搬送車)などのロボットとAI(人工知能)の組み合わせで実現する作業員とのリアルタイム協調や情報連携による製造工程の効率化など、製造現場の業務効率を改善するユースケースも想定されている。

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