増えるロボットの活用領域、同時に高まるセキュリティの問題:ロボットセキュリティ最前線(1)(1/2 ページ)
人手不足やコロナ禍などにより、産業用ロボットやサービスロボットなど、ロボットの利用領域は急速に拡大している。一方でネットワーク化が進むこれらのロボットのセキュリティ対策については十分に検討されているとはいえない状況が続く。こうしたロボットセキュリティの最前線を取り上げる本連載。第1回となる今回は、ロボット市場全般の動向とセキュリティへの意識について解説する。
人手不足や、変異株など新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延(まんえん)による感染リスク低減などを目的に「遠隔化」「非接触化」「自動化・省人化」を実現するロボットへの期待が高まっている。日本が得意とする産業用ロボットにおいては、AI(人工知能)という新たな武器を加え、よりインテリジェンスなロボットに生まれ変わろうとしている。一方、人と共存する新たなサービスロボットの普及も進み始めている。
ロボット利活用の拡大は今後さらに加速する見込みだが、こうした機能の多くは、ネットワークへの常時接続、クラウドへのアクセスを前提として実現しているものだ。そのため、今までにも増してセキュリティへの対策が必要不可欠となるが、ロボットベンダー、利用ユーザー共にロボットのセキュリティに対してそれほど意識を向けているわけではないのが現実だ。そのため、今後新たなロボット活用が広がるにつれて、セキュリティリスクが高まるという構造が生まれている。
本連載では、拡大するロボット市場において必要不可欠となる「ロボットセキュリティ」の最前線とそれを実現するソリューションについて紹介する。第1回となる今回は、ロボット市場全般の動向とセキュリティへの意識について解説する。
マクロ的視点でのロボットを取り巻く環境の変化
最初に、ロボット市場の動向を把握する上でマクロ的な観点としてPEST分析(政治面、経済面、社会面、技術面での分析)を中心に主要なポイントを説明する。
政治面(Politics)
日本は モノづくり分野を中心とした産業用ロボットの生産、活用などにより“ロボット大国”としての地位を築き、世界をリードしてきた。しかし、欧米や中国などが AIと共にロボット事業を国際競争力の鍵として力を入れている。日本も2015年1月に「ロボット新戦略」を打ち出し、国家レベルでロボット分野に注力している。
経済面(Economy)
日本は世界でも類を見ないスピードで少子高齢化による労働力不足が進んでいる。65歳以上が占める割合が 29.1%(※1)と世界トップである。15歳以上の就業者総数に占める高齢就業者の割合も 13.6%と過去最高となっている。また、「1時間当たりの仕事で生み出す付加価値」である労働生産性においては、統計がある1970年以降50年以上もG7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)の中で最下位が続いており、生産性の改善が急務となっている。
社会面(Society)
コロナ禍によって新たに台頭した「非接触経済」の実現に向けた動きが本格化している。特に外食産業を中心に、新型コロナウイルス感染防止と効率的な店舗運営を目的とした配膳ロボットの導入が加速している。また、巣ごもり消費の増加によるEC(電子商取引)市場の規模拡大に伴い、ロボットによる倉庫の自動化、公道でのラストワンマイル配送のための規制緩和が検討中だ。
技術面(Technology)
AI技術の向上、5Gの普及により、ロボットの性能改善はもちろん、よりインテリジェンスなロボットの出現が期待されている。現在は事前に設定された特定の作業や、用途におけるタスクのみを行う個別ロボットが中心であるが、複数の業務に対応した多機能化や自律的なロボットの出現が間近に迫っている。
国内ロボット市場規模は大きく成長
こうした取り巻く環境の変化を受け、今後、国内のロボット市場はどのように成長するのだろうか。調査会社の富士経済グループのレポート(※2) によると、2020年の国内ロボット関連市場は6294億円であるといわれているが、2025年には約2倍の1兆2262億円に成長すると予測されている。新型コロナウイルスがもたらした、感染予防対策、業務の省人化・自動化ニーズの加速、新たな生活様式への対応など、ロボットに対する価値変化が大きく寄与している。
(※2)富士経済グループ「2021 ワールドワイドロボット関連市場の現状と将来展望 No.1,2セット」
さらに、特筆すべき点としては、2021年にはサービスロボットの市場規模が産業用(FA)ロボットを抜き、2025年には全体の約6割を占めるまでになる点である。今までの工場を中心としたロボットだけではなく、さまざまな場所で人とロボットが共存する新たな社会が訪れようとしている。
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