注目される2022年上半期EU議長国フランスのデジタルヘルス戦略:海外医療技術トレンド(79)(2/3 ページ)
前回は、欧州NIS指令2の最新動向を紹介したが、同時に欧州各国レベルでは、さまざまなデジタルヘルス・イノベーション施策が進行している。今回はフランスを取り上げる。
フランスのデータ駆動型健康戦略を先導するeヘルスロードマップ
その後2019年7月16日、フランス国民議会は、「私の健康2022年(Ma santé 2022)」(関連情報)計画を含む保健法を採択した。
同法は、保健専門職のキャリアパス現代化の観点から、学部第2学年への進学を決定する多くの条項を廃止し、多様な経路からの進学を可能にすることによって、医学や薬学、歯学、妊婦教育への進路を刷新することを目的に掲げている。その上で、以下のような課題解決策を打ち出している。
- 専門家と外来患者、社会医学、病院の間にケアの共同体を構築し、地域における健康プロジェクトの創設をめざす一方、地域保健専門家コミュニティー(CPTS)(例:多職種型医療センター)のプロジェクトは、保健システムにおける他のプレイヤーとの調整を確実にするために、地域保健庁の長官の承認を条件とする。なお、CPTSでは、全ての保健専門家が、ネットワークの中で活動する必要がある
- 複数病院の同一部門をグループ化した病院トラストは、プラクティショナーや財務、投資においてリソースを共有する必要がある
- 国立保健データ研究所に代わって、国立保健データシステムからデータを収集・整理して利用可能にするデータプラットフォームを構築する
- 個々のユーザーは、2022年1月1日より、専門家や保健医療施設とのセキュアな交換のために、共有された医療ファイルおよびデジタルツールにアクセスするデジタルスペース「MyHealthSpace」へのアクセスが可能になる
- 遠隔医療の展開を保証するために、既存の法的フレームワークを適応させる
- 医療保険者と医療専門家の間で、都市における患者のケアを向上させ、医師がより多くの患者の調整に時間を費やせるようにする医療アシスタントを創設することに同意する
また、政府機関の機能を強化するために、以下のような施策をとるとしている。
- 専門家のキャリアを通して、高いレベルのスキルを維持するために、医師のスキルを再認定する
- 地域病院のミッションおよびガバナンスの手順の再定義を目標とする
- 医療活動や重要な機器のための承認システムを現代化する
- 競争の廃止に関連して、病院プラクティショナーという単一の処遇を創設する
- 電子処方箋の構築を推奨する
加えてガバナンスの視点から、連帯・保健省傘下のeヘルス代表部(DNS)、国家eヘルス庁(ANS)、国家eヘルス会議、デジタルヘルス全体をカバーする委員会などによる組織的取り組みを提示している。
図1は、国家健康戦略を起点とするフランスのeヘルスのロードマップを提示したものである。
図1 フランスのeヘルスロードマップ[クリックで拡大] 出典:eHealth Department, French Ministry of Solidarity and Health「Digital health strategy and investment in France」(2021年11月23日)
そして図2は、フランスのeヘルスロードマップのビジョンと戦略を提示したものである。
図2 フランスのeヘルスロードマップのビジョンと戦略[クリックで拡大] 出典:eHealth Department, French Ministry of Solidarity and Health「Digital health strategy and investment in France」(2021年11月23日)
この中で、「デジタルプラットフォーム」は、デジタル保健スペースによる市民向けサービス、プロサービスパッケージによる専門家向けサービス、保健データハブによるデータ2次利用から構成される。次に、デジタルプラットフォームを支える「コアサービス」は、医療専門家/市民向けセキュア保健メッセンジャーシステム、個人医療記録、カレンダー、電子処方箋、そして調整ツールから構成される。そして、ルールや標準規格を設定する「コアレファレンシャル」は、倫理、セキュリティ、相互運用性から構成される。
さらに図3は、市民向け保健サービスプラットフォームである「MyHealthSpace」の全体像を示している。
図3 「MyHealthSpace」の全体像[クリックで拡大] 出典:eHealth Department, French Ministry of Solidarity and Health「Digital health strategy and investment in France」(2021年11月23日)
「MyHealthSpace」は、以下の4つの機能から構成される。
- 共有された患者保健データリポジトリ:患者保健データリポジトリへのアクセスと更新
- セキュアなメッセージングシステム:セキュアな方法で患者情報を受信
- アジェンダ:過去および将来の保健医療予約を集約
- アプリケーションストア:有益な保健医療向けアプリケーションへのアクセス
図4は、「MyHealthSpace」に参画するプロバイダーの一覧であり、2021年11月23日時点で、30のプロバイダーが37のサービスを提供している。
図4 「MyHealthSpace」に参画するサービスプロバイダー一覧(2021年11月23日時点)[クリックで拡大] 出典:eHealth Department, French Ministry of Solidarity and Health「Digital health strategy and investment in France」(2021年11月23日)
このように、フランスの国家健康戦略の目標年である2022年は、「MyHealthSpace」の導入・展開など、eヘルスの取り組みの本格化が見込まれる一方、同年4月には、5年に一度の大統領選挙が予定されており、現職大統領のエマニュエル・マクロン氏がどのようなリーダーシップを発揮するかに注目が集まっている。
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