カシオが電子キーボードの鍵盤構造の変更にCAEを活用、その効果と展望:CAE活用事例(2/4 ページ)
電子楽器開発で40年以上の歴史を誇るカシオ計算機は、グリッサンド奏法の操作性を維持するために採用してきた旧来の鍵盤構造を見直すべくCAEを活用。新たなヒンジ形状を導き出し、作りやすい鍵盤構造を実現することに成功した。その取り組み内容とCAE活用の展望について担当者に話を聞いた。
CAE活用で導き出す新たなヒンジ形状、作りやすい鍵盤構造
まず、これまでカシオが販売してきた過去機種(電子キーボード)や他社製品などを対象に、かつてデジタルカメラ開発などでも活用してきた落下・衝突解析ツール「Ansys LS-DYNA」による解析を実施。グリッサンド奏法を行った際の鍵盤の左右方向の動き(変位量)をそれぞれシミュレーションして数値化し、それらを参考に、理想とする目標値を定めた。「人が弾いた感覚を数値化することは難しいが、CAEでそれを数値として明確化することで『どこを目指せばよいのか』が分かりやすくなった」(遠藤氏)。
ちなみに、電子楽器を含む現行のカシオ製品については、そのほとんどが3D CADで設計されており、それら3Dモデルは各種解析だけでなく、マーケティング用途などにも幅広く活用が進んでいる。これに対し、今回比較検討した他社製品は、寸法を確認しながら3Dモデルに落とし込んだものを活用している。
次に、旧機種に採用されていたヒンジ形状(初期形状)によるグリッサンド奏法時の変位量をCAEで解析し、先に定めた目標値と比較して実力を確認し、どこが足りていないかなどのギャップを把握。実際のシミュレーションでは初期形状のヒンジでは剛性が低く、横に大きく動いてしまっていることが確認できたという。
そして、得られた解析結果をヒントに形状を見直し、3D CADによる設計変更を図って、再度CAEで解析するというサイクルを繰り返すことで目標値に近づけていき、最終的に剛性を高め、横方向の力に強い(変位量の少ない)最適なヒンジ形状を導き出していった。
従来であれば、設計者の経験と勘で絞り込んだいくつかの設計案に対して、実際に試作品を作って評価/修正を繰り返し、金型を発注して出来上がりを待って、試して、さらに改造して……という非常に時間のかかるプロセスを経て、形状の妥当性を検証しながら質を高めていく必要があった。
だが、CAEの活用によって従来必要だったこれら工数を大幅に削減でき、さらに、設計上の問題点もCAEで早期に発見できることから、手戻りの低減にも大きな効果を発揮したという。「実際、CAEであれば半日程度で解析結果が得られるので、ある設計案に対して夜解析をかけると、翌朝には結果を確認でき、すぐにまた修正をかけることができた」と、赤石氏はCAE活用の効果について語る。
さらに、新しいヒンジ形状の検討では横方向の剛性だけでなく、鍵盤を上から押した際に重たくなり過ぎないよう、上方向からの応力、変位量についても解析を実施。前述したように、ヒンジ部の剛性をむやみに高めてしまうと、鍵盤の操作性や弾き心地、さらには耐久性にも影響を及ぼしてしまう。ここでは、構造解析ツール「Ansys Workbench Mechanical」を活用して、鍵盤を押し込んだ際の上からの荷重に対して最適な剛性となるよう設計検討を実施し、先の横方向をメインとした解析との両輪を回すことによって、最終的なヒンジ形状を作り上げていった。
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