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AUTOSARの最新リリース「R21-11」(その1):新規コンセプトの他に変更や廃止もAUTOSARを使いこなす(21)(2/4 ページ)

車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載第21回からは、2021年11月25日に発行された最新規格文書の「AUTOSAR R21-11」について紹介する。

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AUTOSAR R21-11の概要

 先述した通り、2021年11月25日に「AUTOSAR R21-11」(Internal Release Number:R4.7.0)が発行されました。R4.x系の初版(R4.0.1)の発行が2009年末ですから、もう丸12年にわたり発展、維持されてきたことになります。

 このリリースの扱いは「minor release」であり、10の新規コンセプトの導入(いずれもdraft扱い※5))など、さまざまな機能拡張が行われています(図1、表1)。

図1
図1 AUTOSARのRelease種別[クリックで拡大]
NO. Concepts FO CP AP 補足 State
1 Mode Dependent Configuration(MDC) x - x 機能拡張 draft
2 System Health Monitor(SHM)※MonitorではなくManagementという表記もみられるが、表記ブレ x - - 機能拡張 (続編) draft
3 Classic Platform Flexibility(CP Flexibility) x x - 機能拡張(続編) draft
4 Service Discovery Harmonization x x - 記述改善 draft
5 Memory Stack Rework - x - 機能拡張 draft
6 E2E for Fields x x x 機能拡張 draft
7 Rework of PNC related ComM and NM x x - 効率改善 draft
8 10BASE-T1S - x - 機能拡張 draft
9 DDS Security in Communication Management DDS Network Binding - - x 機能拡張 draft
10 DDS Enhanced Discovery - - x 機能拡張 draft
表1 R21-11の新規コンセプト一覧(xは影響を受けるプラットフォーム、FO:Foundation、CP:Classic Platform、AP:Adaptive Platform)

※5)リリースイベントでは、「11のコンセプト」と発表していましたが、残る1つは、Unified Timing and Tracing Approach(R20-11でdraftとして導入されたコンセプト)です。それに対するvalidation作業とそこでの指摘対応がひとまず完了した、という意味でカウントされているものと考えられます。

 表1に記載のコンセプト以外にも、さまざまな変更が行われています。例えば、APのPHM(Platform Health Management)で、これまで未定義だったハードウェアウォッチドッグの制御に関するAPI定義やその利用者の明確化(後述)などが行われていますし、今回、3つのBSWモジュールが追加されています(表2)。また、機能の追加だけではなく、幾つかの機能などの廃止も決まっています(これも後述)。

表2
表2 BSWモジュールの一覧(Module ID順、R4.0.1〜R21-11までに追加/削除されたもの)クリックで拡大

AUTOSARでの各種表現の見直し

 昨今の社会情勢の影響を受け、多くの標準化団体で「master/slave」「black/white list」をはじめとする用語の言い換えに関する議論が行われています。実際、既に一部の規格の改定の際に用語の変更が行われています。例えば、2021年10月1日改訂のSAEのLIN通信関連規格SAE J2602シリーズでは、master/slaveをcommander/responderに置き換えています※6)

※6)「言い換えだけで規格改定したのか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、規格上の用語をそのまま使うことが仕事や生活の上で大きなリスクになる場合(典型的には「差別主義者」扱いされかねないこと――規格上の用語だと知っている人ばかりではありませんし、差別への感度がより一層高まっている中ですから、その点について「温度の高い」海外拠点などからの懸念の声を、「冷めた」日本側で無視、軽視し続けるのには疑問あり)も出てきているようです。また、市場での使われ方の実情に合わせた変更、例えば、従来のnormal communication mode 10.417kBPSに加え、fast communication mode 19.231kBPSの追加など、各種の変更が行われています。なお、SAE J2602の旧版は、LINコンソーシアムの「LIN 2.0 Specification」をベースにしていましたが、今回からISO 17987シリーズを参照するように変更されています。LINコンソーシアムの解散に伴い、LIN 2.0(およびLIN 1.3)の公式入手ルートが絶たれたためです(LIN 2.1/2.2AはCAN in Automation(CiA)管理下のWebサイトで公開を継続しています

⇒CiAが公開しているLIN 2.1/2.2AのWebサイト

 実は、AUTOSARでもその検討は始まっており、その旨が各プラットフォーム向けのTR Release Overview文書の冒頭で明示されています(R20-11/R21-11 TR CP/AP/FO Release Overview, sec. 1.2.1 Terminology statement)。

 私が担当するLIN通信関連の規格文書(SRS LIN、SWS LinIf)でも、主たる通信規格文書(ISO 17987シリーズ)で使われている用語「LIN master」「LIN slave」が各所で使われていますが、今のところは、ISOに合わせた表記のままとしています(私の独断で残しているわけではありませんので、念のため)。

 なお、ISO 17987の各パートの多くは2016年に発行されており、ISOのルールで定められた5年ごとの定期見直しの時期を迎えていますし、ドイツCiAと米国SAEの間では既にmaster/slaveをcommander/responderと言い換えることで合意しており、近々何らかの動きがあるものと予想しています。

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