プラント内の送電ロスを95%削減、三相同軸型超電導ケーブルシステムが実用化へ:脱炭素(1/2 ページ)
NEDOと昭和電線ケーブルシステム、BASFジャパンが、民間プラントの実系統に三相同軸型超電導ケーブルシステムを導入する「世界初」の実証試験を完了したと発表。昭和電線ケーブルシステムが中核になって開発した三相同軸型超電導ケーブルシステムをBASFジャパンの戸塚工場に導入し、約1年間安定稼働させ、商用化に向けた技術実証を確認した。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と昭和電線ケーブルシステム、BASFジャパンは2021年12月6日、オンラインで会見を開き、民間プラントの実系統に三相同軸型超電導ケーブルシステムを導入する「世界初」(ニュースリリースより)の実証試験を完了したと発表した。NEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」の支援の下、昭和電線ケーブルシステムが中核になって開発した三相同軸型超電導ケーブルシステムをBASFジャパンの戸塚工場(横浜市戸塚区)に導入し、2020年11月〜2021年9月にわたる約1年間、安定的に連続稼働することで、商用化に向けた技術実証を確認できたという。昭和電線ケーブルシステムは、2026年までの市場導入を進めるべく開発をさらに進めたい考えだ。
会見の登壇者。左から、BASFジャパン 経営推進本部 本部長の大津武嗣氏、昭和電線ホールディングス 社長 グループCEOの長谷川隆代氏、NEDO 理事の和田恭氏、同 省エネルギー部 部長の吉岡恒氏[クリックで拡大] 出所:NEDO
今回の実証試験は、超電導ケーブルの電気抵抗がゼロになる超電導状態を維持する低温環境を作り出すための液体窒素などの冷媒貯蔵設備を既に有する大規模電力利用プラントを対象に、三相同軸型超電導ケーブルシステムの敷設の可用性や夏などの酷暑における安定的な冷却、送電ロスの大幅な削減による省エネ効果について確認することを目的としている。
実証試験に用いた三相同軸型超電導ケーブルシステムは、2017〜2018年度にプロジェクトの実用化開発プロセスで開発したもので、一般プラント向けに低コストでコンパクトなことを特徴としている。三相同軸型ケーブルは、誘導電界を遮断するための遮蔽(しゃへい)層に使用する超電導線材の量を単芯ケーブルの3分の1にできるため、トータルの超電導線材のコストを3分の2に削減できている。三相同軸型とすることで、単芯ケーブルであれば3本のケーブルが必要になるところを1本で済ませ、コンパクトで柔軟性のある構造を実現したとする。
また、通常の単芯ケーブルの場合、三相交流の各相を独立して流すため、終端電極が6台必要になる。これに対し、三相同軸型では同軸に電極を配列することにより終端電極が2台で収まるため、形状をさらにコンパクトにすることができた。なお、これまで用いられてきた銅線を用いた常電導ケーブルは、送電によって発生する熱の影響を抑える大型のバスダクト内を通す必要がある。三相同軸型超電導ケーブルシステムは、電気抵抗がゼロなのでバスダクトが不要であり、ケーブルを1本にまとめる効果も含めて大幅な省スペース化が可能になる。常電導ケーブルが入るバスダクトが外径700mmで3本必要になるのに対し、三相同軸型超電導ケーブルシステムは冷却のために内部に組み込んだ液体窒素流路を含めても外径154mmとなっている。
超電導ケーブルを接続するための中間接続についても、既存技術を発展させた同軸接続構造を採用し、外径340mmのコンパクトな形状を実現した。この中間接続技術の確立により、線路の長距離化が可能になったという。昭和電線ケーブルシステムとエア・ウォーターが共同開発したサブクール式冷却システムは、密閉容器に蓄えた液体窒素を減圧することによって、液体が気体に変わる際の蒸発潜熱を利用してマイナス200℃まで冷却し、超電導ケーブルの超電導状態を維持する。プラントが持つ冷媒貯蔵設備から得られる液体窒素を利用し、減圧するために排気した窒素ガスは回収してプラントで利用するというコンセプトで設計されている。
超電導ケーブルの冷却に用いる液体窒素の状態を監視するシステムも開発した。今回の実証試験では、終端部分に圧力、温度、流量、液面レベルを計測するセンサーを配置し、これらのデータを一元的に監視できるようにした。何らかの理由にいる電気的なショートや冷却装置の異常などが発生した場合は、超電導ケーブルシステムを系統から切り離し、バックアップとして保持する常電導の送電線に切り替える機能も付加している。
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