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設計者CAEによる締結部の設計法設計者向けCAEを使ったボルト締結部の設計(7)(2/4 ページ)

部品の固定(締結)のために使用する“ボルトの設計”をテーマに、設計者向けCAE環境を用いて、必要とされる適切なボルトの呼び径と本数を決める方法を解説する。連載第7回では、本連載の最終目標である設計者が使うCAE環境で、必要とされるボルトの呼び径と本数を決める設計法を取り上げる。

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よくある普通の荷重が作用する場合(その1)

 前述の例は、荷重の作用線とボルトの軸が一致したものでしたが、このような例はまれで、ほとんどの場合は荷重の作用線とボルトの軸が一致せず、荷重がモーメント荷重となります。図11のような締結体(以降「Tフランジ」と呼びます。)を例にとって説明します。図11の形状は、参考文献[3]を参考にしました。

検討対象【1】
図11 検討対象【1】 [クリックで拡大]

 ボルトに作用する力を図12に示します。被締結体がてこのように振る舞い、荷重Wと比較してはるかに大きな力Bがボルトに作用することになります。図11の15[mm]という寸法が、Bに影響することになります。前項では、荷重Wはボルト軸力である7318[N]まで耐えましたが、今度は許容される荷重はかなり小さくなりそうです。

ボルトに作用する力
図12 ボルトに作用する力 [クリックで拡大]

 接触要素を用いたモデルで解析しましょう。境界条件を図13に示します。締め付けトルクに応じた軸力をボルトに発生させるために、ボルトを冷却して熱収縮させています。

Tフランジの境界条件:接触要素を用いたモデル
図13 Tフランジの境界条件:接触要素を用いたモデル [クリックで拡大]

 解析結果を図14に示します。左側はW=3000[N]の場合で、被締結体のボルト穴部で被締結体同士は離れていません。右側はW=8000[N]の場合で、被締結体のボルト穴部の内側は離れています。

接触要素を用いた解析結果:Tフランジ
図14 接触要素を用いた解析結果:Tフランジ [クリックで拡大]

 荷重Wを変化させたときのボルトの応力振幅と安全率を図15に示します。図15中央の黒色の線は、接触要素を使ったモデルで上下のボルトの穴がちょうど離れる荷重です。黒色の線における荷重Wは5365[N]となりました。黒色の線を境に、ボルトに作用する応力振幅と安全率は急上昇します。前項の例では、ボルト1本で7318[N]まで耐えましたが、今度はボルトを2本に増やして5365[N]です。このときの安全率は4.61[-]です。

荷重を変化させたときの応力振幅と安全率:Tフランジ
図15 荷重を変化させたときの応力振幅と安全率:Tフランジ [クリックで拡大]

 応力振幅の計算法を説明しておきます。図16は、ボルト軸部の軸方向(Z方向)応力です。ボルトには曲げ応力が発生していて、軸部断面の応力値は一様ではありません。最大点であるB点のZ方向応力を読み取り、式3で応力振幅を計算しました。安全率は式2で計算しました。

ボルト軸部の軸方向(Z方向)応力
図16 ボルト軸部の軸方向(Z方向)応力 [クリックで拡大]
式3
式3

 それでは、設計者CAEモデルを作って解析しましょう。設計者CAEモデルは図17のようになります。拘束条件ですが、被締結体が接触する面の(下側の)ボルト穴の稜線のZ方向変位を拘束します。次に、図12の支点に相当する稜線(エッジ)のZ方向変位を拘束します。支点を拘束することは忘れないでください。それと、ボルト穴と支点はZ方向だけ拘束してください。これだけでは剛体変位が生じるので、適当な稜線のX方向変位とY方向変位を拘束します。荷重条件は、ボルト頭が接触する面の(上側の)ボルト穴の稜線にボルト軸力を作用させます。次に、荷重Wを荷重のかかる面に作用させます。

設計者CAE解析モデルと境界条件
図17 設計者CAE解析モデルと境界条件 [クリックで拡大]

 解析結果を図18に示します。W=3000[N]の場合、ボルト穴稜線の反力の最小値は119.79[N]とプラス値となり、被締結体が離れないことになります。W=8000[N]の場合、反力の最小値は−121.08[N]となり、被締結体が離れていることになります。

設計者CAE解析モデルによる解析結果
図18 設計者CAE解析モデルによる解析結果 [クリックで拡大]

 図19は接触要素を用いたモデルで、ボルト穴稜線の間隔の定義を示したものです。この間隔と設計者CAEモデルで求めた拘束部反力の最小値を図20に示します。青色の線はボルト穴稜線の間隔で、オレンジ色の線は拘束部反力の最小値で、図20中央の黒色の線は設計者CAEモデルで拘束した稜線の反力の最小値がちょうどゼロになる荷重です。青色の線がゼロから離れる荷重(被締結体が離れる荷重)と、設計者CAEモデルで拘束した稜線の反力がちょうどゼロになる荷重とが、ほぼ等しいと判断できます。このことから、前述した「ボルト穴稜線のボルト軸方向反力がプラス値ならば被締結体が離れないことに相当し、疲労破壊しないと判断できる」ことが、Tフランジにも適用できると考えられます。前述したように、設計者CAEモデルで拘束した稜線の反力がちょうどゼロになる荷重における疲労破壊に対する安全率は4.61[-]です。

ボルト穴稜線の間隔の定義
図19 ボルト穴稜線の間隔の定義 [クリックで拡大]
荷重を変化させたときの被締結体の間隔と拘束部反力最小値
図20 荷重を変化させたときの被締結体の間隔と拘束部反力最小値 [クリックで拡大]

 以上が、設計者CAE環境による締結部の設計法で、この方法を使ってボルトが疲労破壊するかどうかを判断して、適切なボルト径とボルトの本数を決めることができます。

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