3Dプリンタだから実現できた東京五輪表彰台プロジェクトとその先【前編】:未来につなげるモノづくり(4/4 ページ)
本来ゴミとして捨てられてしまう洗剤容器などの使用済みプラスチックを材料に、3Dプリンティング技術によって新たな命が吹き込まれた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)表彰台。その製作プロジェクトの成功を支えた慶應義塾大学 環境情報学部 教授の田中浩也氏と、特任助教の湯浅亮平氏に表彰台製作の舞台裏と、その先に目指すものについて話を聞いた。
延期決定後に量産スタート、7000枚のパネルを約20日間で
だが、無情にもこの直後から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を奮いはじめる。2020年3月にWHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言、日本国内でも感染が急速に広がり、同じく3月に東京2020大会の1年間の延期も正式に決定した。
このタイミングで、既にパネルのデータも造形に使用する材料も確定しており、翌月(2020年4月)からエス.ラボの協力の下、12台の材料押し出し方式3Dプリンタによって量産するという段階まで来ていた。このとき、量産をすぐにでも開始できる状況まで準備が整っていたこともあり、表彰台の製作そのものは続行となった。
量産期間は約20日間。この期間内に7000枚のパネルを12台の3Dプリンタで量産する必要がある。当初は、田中浩也研究室に設置してある装置と同じものを12台使用する想定で話を進めていたが、エス.ラボはこのプロジェクトのために装置を新規設計し、1台の装置で3つを同時に造形できる、よりコンパクトな材料押し出し方式3Dプリンタを開発。それを4台並べ、期日内に7000枚ものパネルを見事に作り上げた。
そして、その後は組み立てや装飾などの工程を経て、2020年6月に全98台の表彰台は無事に完成したが、1年後の開催に備えて、そのまま倉庫で保管されることとなった。
そこから約1年が経過した2021年夏、あらためて日の目を見る機会を得た表彰台。田中氏は「オリンピック・パラリンピックのような特別な機会の中で、これまでやったことのない技術や課題に挑戦し、同じ1つのデータから7000枚ものパネルを3Dプリンタで量産できたことを成果として実証できた点は非常に大きな意味を持つ。さまざまなことを同時並行で検証しながら、これらを統合的かつ短期間で実現できたのはやはり3Dプリンタのおかげだ」と表彰台プロジェクトを振り返る。
以上、表彰台を製作するプロジェクトとしては、東京2020大会の開催そのものがゴールとなるわけだが、このストーリーはここで終わらない。次回【後編】では、田中氏が提唱する「リープサイクル(跳躍循環)」と呼ばれるコンセプトと、そこで目指すビジョンについてお届けする。 (【後編】を読む)
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