3Dプリンタだから実現できた東京五輪表彰台プロジェクトとその先【前編】:未来につなげるモノづくり(2/4 ページ)
本来ゴミとして捨てられてしまう洗剤容器などの使用済みプラスチックを材料に、3Dプリンティング技術によって新たな命が吹き込まれた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)表彰台。その製作プロジェクトの成功を支えた慶應義塾大学 環境情報学部 教授の田中浩也氏と、特任助教の湯浅亮平氏に表彰台製作の舞台裏と、その先に目指すものについて話を聞いた。
未知の挑戦となったリサイクルプラスチック材料の改質
約4カ月におよんだ検証・研究の期間では、東京2020大会表彰台プロジェクトの成功を支えた重要な要素の1つであるリサイクルプラスチック材料の改質も行われた。
大きな課題は、全国から回収された何種類もの使用済みプラスチック容器をベースとしたリサイクルプラスチック材料を用いて、品質良く、高精度に3Dプリントできるのかという点だ。この材料の改質を主に担当したのが湯浅氏である。当初、回収した使用済みプラスチックを再生した材料では造形時の収縮も大きく、反りなどに悩まされたという。ここでキーとなったのが、使用済みプラスチックの高いレベルでの選別と充填剤(フィラー)だ。
リサイクル材料を3Dプリントするという取り組み自体は、これまでも研究室の中で行われてきたというが、今回のプロジェクトのように何種類もの使用済みプラスチック容器から作られたリサイクル材料を使う前提で、それがそもそも3Dプリンタで使えるかどうか分からない状態から始めるという点で未知の挑戦だったという。そのため、材料の改質は試行錯誤の連続だった。
「最初に手にしたリサイクルプラスチック材料だと造形直後から状態が悪く、品質的に厳しいと判断した。そこで、回収された使用済みプラスチックから3Dプリントに適しているものと適していないものを選んだり、改質すれば使えるものと使えないものなどを検証したりして、造形に使えるリサイクルプラスチック材料を探索することにした」(湯浅氏)
同時に、リサイクル材料の収縮を抑えるために欠かせないフィラーについては、ナノダックスの協力の下、廃棄ガラスを再利用したグラスウールを混練することでリサイクルプラスチック材料の質を高めることに成功した(実際のペレットには藍色を再現する顔料も含まれる)。
「やはり、フィラーについてもリサイクル材料を使用したいと考えていた。いくつか候補がある中で、最終的には冷蔵庫やエアコンなどの製造時に断熱材として用いられるグラスウールの端材を材料の改質に用いることで、フィラーの側面からもリサイクルを図りつつ、材料としての性能も上げるというやり方に行き着いた」と湯浅氏は説明する。
また、材料を調色する場合、通常はベースが無色透明の材料から目的の色を作り出すわけだが、今回は既に色の付いた状態から、それを美しい藍色にする必要があったため、使用済みプラスチックとグラスウールの混練時の材料比率をしっかりとコントロールする必要があったという。この点もリサイクル材料の活用ならではの難しさであり、挑戦でもあった。
本来であれば、材料研究というのは時間がかかるものであり、他の協力企業などと連携し、検証・評価のループを何度も時間をかけて繰り返しながら突き詰めていくものだ。今回の表彰台プロジェクトでは、あらゆる作業を並行して進めつつ、それをわずか4カ月という短期間で実施し、実現のめどを付けなければならなかったのだ。
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