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マサチューセッツ州の修理権改正案は自動車業界にどんな影響を与えるか修理する権利とコネクテッドカー(1)(1/2 ページ)

診断データは、修理工場が車両の状態をよりよく理解し、車両の潜在的な問題を分析かつ特定し、クルマの修理に役立つものだ。この記事では、そうしたデータの扱いに関する「修理する権利(修理権)」を分析し、幾つかの課題について解説する。

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 現代の車両には、タイヤの空気圧や車速、エンジン温度、走行時間と距離、ブレーキを踏んだ強さ、加速度など、車両のさまざまな面を継続的に監視するセンサーが搭載されている。これらのセンサーとそれを制御するソフトウェアは大量のデータを生成する。その中の一部のデータ、特に診断データは、修理工場が車両の状態をよりよく理解し、車両の潜在的な問題を分析かつ特定し、クルマの修理に役立つものだ。この記事では、そうしたデータの扱いに関する「修理する権利(修理権)」を分析し、幾つかの課題について解説する。

修理する権利の歴史

 まず、修理権の背景について紹介したい。自動車技術が進歩するにつれて、1990年代はブレーキ、エアバッグ、ステアリングなどのさまざまなシステムでより多くの電子機器とソフトウェアが使用されるようになった。このような車両を修理するには、修理工場のメカニックの技術的なスキルと経験だけでなく、コンピュータ診断ツールが求められることになった。

 自動車技術が徐々に進歩し、2010年代初頭の車両には1台当たり1億行を超える膨大なソフトウェアコードが組み込まれるようになった(※1)。修理工場のメカニックがこういった車両を診断し修理するためには自動車メーカーと同じ診断情報にアクセスする必要がある。従って、当時の修理権の目的は、一般の修理工場と車両所有者が、クルマの修理のために必要な独自仕様ではない(non-proprietary)診断と修理情報にアクセスできるようにすることであった。そうでなければ、一般の修理工場に対してこの診断データにアクセスできる正規ディーラーのみが不当な優位性を持つことになる。


図1:診断データを使用した現代の車両診断と修理(クリックして拡大) 出典:Freepik.com

 修理権の発議案は、2012年に88%の支持を得て可決され、2013年に米国マサチューセッツ州で法制化された(※2、3)。さらに、2014年に自動車メーカーを代表する2つの業界団体、自動車メーカー同盟(the Alliance of Automobile Manufacturers)とグローバル自動車メーカー協会(the Association of Global Automakers)が、マサチューセッツ州法を50州全ての国家規格にすることに合意した(※4)

 車載システムは2010年代にさらなる進化を続けた。自動車メーカーが車両からさまざまなデータを収集するために使用するテレマティクスユニットを備えた車両が登場し、テレマティクスユニットが普及したため、一般の修理工場が再び不利になるリスクが生まれた。2013年の修理権法では、自動車メーカーが車両所有者と一般の修理工場に独自仕様ではない車両の診断インタフェースを介しての診断データにアクセスする許可を義務付けていたが、テレマティクスユニットからワイヤレスで送信される車両データには適用されていなかった。

 そのため、2020年に車両所有者と一般の修理工場がテレマティクスシステムデータ(すなわち、ワイヤレスで送信される車両データ)にアクセスできるように修理権発議案が更新され、75%の支持を得て承認された(※5)

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