本当にサブスクでもうかるのか、費用対効果を探る:サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(10)(1/3 ページ)
サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第10回は、ソフトウェアビジネスによる収益化に向けたサブスクリプションの導入で本当にもうかるのかについて、調査会社などが発表している数字を基に探っていく。
ソフトウェアによるコト売りを始めようとした場合に、ソフトウェアのエンタイトルメント管理やライセンシングシステムがなく、サブスクリプションモデルへの移行を正しくサポートできない場合が多い。最新の収益化システムがないままでは、収益の伸び率が期待の30〜50%程度に伸び悩むことは珍しくない。
本連載では、ソフトウェアを収益化させる手段を今まで紹介してきたが、どのような手段がどのくらいの効果を期待できるのか、感覚ではなく客観的なレポートに基づいた数値で説明をすることは重要である。さらに、収益化システムを自社で構築するのか、それとも商用のソリューションを採用するかも判断の難しいところだ。
ソフトウェアによるサービスビジネスの売り上げの見込みや収益化の効果などは「やってみなければ分からない」というのが現場担当者の本音だろう。
しかし、収益化の手段に対する効果の目安を数値で表すことができれば、収益化の戦略は自信を持って組み立てられるはずだ。
そこで、ソフトウェアビジネスを進めるに当たり、収益化にどのくらいの費用対効果があるのか、どの程度コスト削減効果が期待できるのか、グローバル企業が実際に指針にしているデータや根拠となる指標を交えて、収益化アプローチの費用対効果について考えてみたいと思う。
⇒連載「サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代」バックナンバー
サブスクリプションは本当にもうかるのか?
近年、競争力を維持するために、オンプレミスソフトウェアからSaaSへ移行し、サブスクリプションや従量制などの新しいライセンスモデルを提供しようとする企業が多く現れている。コロナ禍においてその動きは顕著となり、ソフトウェアのサービス化やサブスクリプションビジネスはさらなる注目を集めている。
しかし、実際にサブスクリプションに移行することを検討する際に「本当にもうかるのか?」という疑問を投げかけられることは少なくない。欧米諸国において、売り切り型からサブスクリプションに移行した企業にどのようなことが起きたのだろうか、そして収益化ソリューションがどのような役割を果たすのだろうか。
米国SaaS Capitalの調査によると、サブスクリプションビジネスが主体のSaaS企業はアーリーステージにおいても年間で30%以上の成長を遂げているとしている。さらに米国Maxwell Locke & Ritterの調査ではSaaS企業の粗利率は年間平均で70%を超えるとしている。
だが、サブスクリプションの強さはビジネスの成長率や粗利率だけではない。企業の株価や、時価総額にも影響している。米国Altman Vilandrie & Companyの調査では サブスクリプションモデルに移行したソフトウェア企業の最初の5年間は財務指標が低下したが、時価総額については300%まで上昇した。そうした企業の財務指標と市場評価には大きな乖離(かいり)が生じているのだが、ソフトウェア企業が売り切り型からサブスクリプションに移行した場合、注目すべきポイントは、企業の長期的な経常収益(recurring revenue)だとしている。
ところが、ソフトウェアのサブスクリプションビジネスを始めたとしても、そのソフトウェア企業がライセンス管理を十分に行っていないことによって、エンドユーザーが契約通りにライセンスのコンプライアンスを順守できていない可能性がある。
エンドユーザー企業のおよそ2社に1社が(故意または過失によって)ライセンスされたソフトウェアを契約以上に利用している可能性がある。ソフトウェア業界では収益で考えると違法コピーや過少申告によって、総収益の15〜20%の損失が想定されている。
しかし、収益化ソリューションの採用により、およそ2年間で総収益が平均3〜7%改善することが分かっている。これは、収益化ソリューションを用いた効果的なライセンシングによって、違法コピーやソフトウェアの過剰使用の割合を削減できるからだ。米国Frost & Sullivanによれば、その削減割合は25%に達するという。
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