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欧州の車載と産業機器でガッチリシェアをつかむRTOS「ERIKA Enterprise」リアルタイムOS列伝(9)(3/3 ページ)

IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第8回は、欧州を中心に車載や産業機器などの分野でガッチリとシェアをつかんでいるRTOS「ERIKA Enterprise」を取り上げる。

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v2からv3へ進化

 ここまでの話は2013年7月に行われたEvidence SRLのセミナー資料をベースとした話なので、その後のアップデートをご紹介したい。

 このセミナー直前の2013年5月に、「ERIKA Enterprise v2(Release 2.1.0)」がリリースされている。新たにTexas Instrumentsの「MSP430」やArmの「Cortex-M4」、インフィニオンの「Aurix tc27x」のサポート、既存のサポートの強化、lwIP(lightweight IP)の追加などを行ったバージョンである。その後も細かくバージョンアップを進め、2016年6月にはRelease 2.7.0が登場している。この2.7.0が実質的にERIKA Enterprise v2の最終バージョンとなり、ここからEvidence SRLは「ERIKA Enterprise v3」の開発に入る。これは最終的に2017年12月にリリースされ、現行製品はこのERIKA Enterprise v3となっている(図15)。

図15
図15 ERIKA EnterpriseのWebサイト。最新のv3を前面に打ち出している(クリックでWebサイトへ)

 v2とv3の主な相違点は以下のようになっている。

  • SMP(対称型マルチプロセッシング)の効率化:v2までは、SMPの場合でもコアごとにRTOSのコピーを用意する必要があったが、v3では1つのRTOSを全コアで共有できるようになった
  • マルチOSのより効果的なサポートとハイパーバイザー対応:ホスト上のLinuxのサブシステムとしてERIKA Enterprise v3が稼働するようになった。この際にハイパーバイザーを利用することも可能になった
  • メモリ保護機構の強化:従来のMPU(Memory Protection Unit)ベースのメモリ保護に加え、シンプルではあるがMMU(Memory Management Unit)ベースでのメモリ保護にも対応した
  • 新しいビルドシステム:Doxygenベースでプロジェクトリボジトリやバイナリライブラリ、RTOSのビルドまでをサポート
  • 内部のデータ構造を一新
  • 新しいスケジューリングアルゴリズムを実装
  • ライセンスモデルを変更。従来のGPLv2+Linking exceptionに加え、新たに商用ライセンスが追加された

 対応デバイスも刷新され、以下のものが加わった。

  • ArmのCortex-A/R/M
  • マイクロチップのAVR8/PIC24/dsPIC33
  • インフィニオンのTricore AURIX
  • カルレー(Kalray)のMPPA
  • ルネサスのRH850
  • x86-64

 ちなみにCortex-Aについては、AARCH64のみのサポートになっているのが特徴的である。またx86-64については、現状はJailhouse Hypervisor上で動くゲストOSという形に限られているといった具合だ。

 さて、ERIKA Enterpriseは、何しろ基本がGPLv2だから、誰でも入手して実行することができる。ダウンロードWebサイトから自分の環境に合わせて必要なファイルを落として展開すればよい。そうは言っても、いきなりどこから始めれば分からないというERIKA Enterpriseの初心者には、Arduino Uno向けのアプリケーション開発の手順も用意されている。まずはこれを使ってERIKA Enterpriseに慣れてみるのも面白いと思う。

 日本では、前回紹介した「RT-Thread」並みに名前を聞かないERIKA Enterpriseだが、欧州を中心に車載や産業機器などの分野でガッチリとシェアをつかんでいる、なかなか面白いRTOSである。

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