カシオが取り組む“人作業の見える化”、ミズスマシなど準直接作業の効率向上:スマート工場最前線(1/3 ページ)
スマート工場化で障壁となるのが「人手作業のデータ化」である。この人手作業のデータ化に現在取り組んでいるのがカシオ計算機である。カメラやビーコンを使用し工夫しながら人手作業に取り組む同社の取り組みを追う。
スマート工場化で工場内のデータ活用を進める動きが広がるが、データ取得がうまくいかず、障壁となりがちなのが「人手作業」である。もともと自動でなんらかのデータが生み出される機械と異なり、人の作業そのものはデータを生み出さない。そのため、何をどうセンシングするかを考えるところから必要になるからだ。
こうした「人作業の見える化」に現在取り組んでいるのがカシオ計算機だ。カシオ計算機では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大後、生産革新への取り組みを従来の効率化から、顧客への提供価値最大化へシフト。柔軟で安定しタイムリーなモノづくりなど、バリューチェーン全体での最適化を目指している。その中でデジタル技術を基盤とした取り組みは1つの中核となっており、スマート工場化への取り組みもこうした観点で強化を進めている。「人作業のデータ化」もこの柔軟で安定した生産を実現する要素として、取り組みを進めているところだ。同社の「人作業見える化」への取り組みを追う。
「設備の見える化」と同時に「人作業の見える化」も
カシオ計算機では現在、「顧客目線の生産戦略」として、スマート工場の概念を拡大し、開発から生産、販売、サービスに至るまでスマートに連結させるスマートマニュファクチャリングへの取り組みを進めている。その基盤の1つとして、製造現場のデータ活用強化にも取り組み、生産ラインの自動化と設備データの活用などを推進してきた。
2016年4月から国内工場である山形カシオをマザー工場と位置付け、自動化技術の研究開発や試作などを推進。2017年8月にタイ工場の関数電卓ラインの自動化を実現した他、2018年8月には山形カシオのデジタル腕時計ラインも自動化し、2018年10月には中国の中山カシオで電子ピアノ鍵盤ラインを自動化し、さらに2020年9月には山形カシオの関数電卓ラインの自動化についても実現している。これらの自動化に合わせて、生産ラインの情報を遠隔地でも取得できるようにするIoT(モノのインターネット)化も推進。設備の出来高や稼働率、不良率など主要KPIの見える化を推進している。
一方でこれらの取り組みを進める上で課題となってきたのが、「人作業の見える化」である。カシオ計算機 生産本部 生産企画部 技術戦略室 アドバイザリーエンジニアの鈴木隆司氏は「これまでの取り組みで設備の情報はリアルタイムで遠隔でも見ることができるようになった。しかし、人の作業の見える化はできておらず、企画通りのライン人員で生産できているのかや、人作業のボトルネックの状況、自動化設備が手間のかかる作業になっているかどうかなどを判断できなかった。設備と人の生産性を合わせてデータ化して見ることが重要だと考えた」と取り組みのきっかけについて語る。
加えて、人手作業を見ていくと、組み立て作業など直接生産に関わる「直接作業」の他、構内物流やミズスマシ(工程へ部品などを供給する役割)などの準直接作業が多くこれらの効率向上も課題になっていたことに気付いたという。鈴木氏は「直接作業には積極的に取り組んでも、準直接作業はそもそも生産性を厳しく把握する動きが少なかった。加えて、準直接作業の分析はビデオカメラで追いかけ、人手で解析するなどの方法しかなく、手間が非常に大きくなるという課題があった」と述べる。
そこで、カシオ計算機では、直接作業だけではなく、準直接作業も対象とし、人作業の見える化に取り組むことを決めた。「人作業」を見える化することで、数値をベースにしてPDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルを高速に回せる体制構築を目指した。
「人作業の見える化」で具体的な目的として位置付けたのが以下の5つの点だ。
- リアルタイムでローコストな「When、Who、Where、What(いつ、誰が、どこで、何をしたか)」の見える化(現状、対策、効果、検証を数値で示す)
- リアルタイムでローコストな環境やモノの見える化(トラックの発着やエレベーターの状態、工程資材の状況)
- 問題発生時に「Why、How(なぜ、どのように)」を分析できる手段がある(ドライブレコーダー的な機能)
- 準直接作業者へのスマートな支援(最適化のアドバイス)ができる
- 他の拠点や品目生産への横展開ができる(KPIとしての設定)
「リアルタイムで人の作業状況とモノの動きを把握できることで現場の状況を遠隔地でもより正確に把握できるようになる。また、数値としてのデータだけでなく、映像情報などを組み合わせて活用することで、問題発生時の分析についても行うことが可能だ。さらにデータ化が進めば、基準が明確化でき、それぞれの支援なども行いやすくなる。水平展開なども可能となる」と鈴木氏は期待する効果について述べている。
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