気象海象のリアルタイム分析で燃料コストが500万円減、船の排出削減の最新事情:船も「CASE」(2/3 ページ)
東京と伊豆諸島を結ぶ航路に2020年6月から就航した「さるびあ丸」は、タンデムハイブリッド方式推進システムを採用して燃費と静粛性を向上させるなど、数多くの新しい船舶関連技術を導入している。採用された新技術の1つに「気象・海象情報を分析する最新の航海支援システム」がある。
事前調査で船舶と運航海域ごとに推進性能を算出する
eE-NaviPlanの航海計画では、事前に船舶ごとに燃料と船速のパフォーマンス特性を解析して船舶運航性能を求めておき、その性能に気象と海象の予測情報を加えて数理計画手法を用いて立案する。船舶ごとのパフォーマンス特性は、船型データなどを基に求めた建造時推進性能(静穏な海域を航行すると仮定した場合の速力と機関出力の関係)に、船体にかかる風抵抗や波(造波)抵抗などを加味した耐航性能評価プログラムで求める。また、運航海域における実運航船舶性能として、当該海域の気象と海象の観測データを反映した実海域推進性能評価プログラムを用いて、静穏状態、時化状態それぞれにおける船舶推進性能を算出する。
実際の運用段階では、事前に求めた実海域船舶推進性能に、3時間ごとの観測で得た最新の気象予測(風向と風力)と海象予測情報(波高、波向、波周期、波潮流)を反映して修正し、その都度最適な航海計画を航行中にも提案し続ける。
以上のように、船舶ごとにあらかじめ求めておいた推進性能と、気象と海象の最新予測情報から立案された航海計画では、航路上の通過点や変針点に設けたウェイポイントにおける最適機関回転数、プロペラピッチ角(さるびあ丸ではスクリュープロペラに翌角を変更できる可変翼プロペラを採用している)、ウェイポイントごとの通過予定時刻をとその内容を船舶に搭載する表示装置に移動体データ通信回線を使って送信する。
船舶が搭載する表示装置(船載機)には民生用(もしくは舶用)のPCを利用している。PCに導入した電子海図と航法アプリに、eE-NaviPlanが立案した航路計画を重ねて表示することで、操船側は、船の現在位置と最適航路計画とのずれ、今後の針路と機関回転数、気象と海象の現況と最新予測情報を確認して航海を続けることになる。
燃料消費量が−2%、年間の燃料コストでは500万円削減
eE-NaviPlanの導入にあたっては、ここまで説明したように事前の準備が重要になる。さるびあ丸でも、運用開始に先立ちマリン・テクノロジストと東海汽船が連携して、さるびあ丸の船舶推進性能の算出や運航する伊豆諸島周辺海域の気象と海象の観測データ取得、そして、それらを基にした実運航における船舶推進性能の算出作業を実施した。
東海汽船側でeE-NaviPlanの採用を決定し、その後の導入作業を担当した船舶部門工務グループ グループ長の青木貴司氏によると、新しいさるびあ丸の建造にあたって、建造費の一部を経済産業省と国土交通省の省エネ補助金(正式名称は「海上輸送の省エネ化推進事業」の「トラック・船舶等の運輸部門における省エネルギー対策事業費補助金」)を適用するための条件が幾つかあった。
その条件を踏まえて、燃費向上のための最新船型の採用、ディーゼルエンジンと電気推進を組み合わせたハイブリッドシステムの採用とともに、環境負荷を抑制する最新技術の1つとしてeE-NaviPlanを導入したのだという(筆者注:この適用条件には配船の効率化を実現する技術の採用も含まれており、東海汽船ではeE-Planを伊豆諸島航路向けにカスタマイズして導入している。このシステムでは伊豆諸島におけるコンテナ輸送の最適化を図っているが、この記事では航海支援システムに着目するため、eE-Planの説明は省く)。
東海汽船としては、eE-NaviPlanの導入によって燃料消費量の削減、すなわち燃料関連経費の抑制を期待している。導入後の実証実験によると、eE-NaviPlanを使用した航海における燃料消費量は、使わなかった航海と比べて燃料消費量が2%削減できている。2%の削減を実際の燃料費に直すと年間500万円に達する。さるびあ丸は今後30年間運航することになるので、eE-NaviPlanの導入によって総額1億5000万円の経費削減が達成できる計算になる。
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