特許は技術者のノルマではなく権利、持っていなければただのオペレーター!?:技術者と特許(1/2 ページ)
特許は、一部の最先端業務に携わる技術者だけが取得するものと思われがちだ。また、日常業務で忙しい中、特許にまで手が回らないという人もいるだろう。だが、特許の取得は個人にとっても、企業にとってもさまざまなメリットがある。CAE懇話会で、特許に関する活動を行うメンバーに、特許を取得する意義や特許への向き合い方などについて聞いた。
特許は、一部の最先端業務に携わる技術者だけが取得するものと思われがちだ。また、日常業務で忙しい中、特許にまで手が回らないという人もいるだろう。だが、特許の取得は個人にとっても、企業にとってもさまざまなメリットがある。
技術者やベンダーが中心となり、CAEに関する情報交換などを行うCAE懇話会で、特許に関する活動を行うメンバーに、特許を取得する意義や特許への向き合い方などについて話を聞いた。
特許取得は技術者の権利である
特許の取得は、明細書を準備し、特許庁に出願することから始まる。出願の1年半後に出願内容が特許公報として公開される。特許の権利化を目指すのであれば、出願から3年以内に特許庁に審査請求を行う。大変なのはむしろここからで、審査結果が戻ってくるが、初回はほとんど拒絶となるため、新規性と進歩性が認められるよう審査官とやりとりを進めていく必要がある。
CAEや実験および知財のコンサルティングを行うアステロイドリサーチ 代表取締役社長の安武健司氏は、シャープに在籍中にCAEや設計、実験、生産などに広く携わってきた。その中で多くの特許を取得し、退職後も特許収入を得てきたという。
安武氏は「特許取得は“ノルマ”と捉えられがちだが、そうではなく技術者の“権利”だと思う。なぜなら研究開発をしているからこそ、特許の出願が可能になるからだ」と強調する。
とはいえ、安武氏もはじめは特許をノルマとして捉えていた。積極的に取り組むようになったのは、自身の特許が初めて他社で使われて実施報奨金を得たときだという。さほど高額ではなかったが、その特許が使用され続ける限り、20年の期限が切れるまで、定期的に特許収入が得られる。幸いなことに、シャープでは退職しても特許収入は得られるようになっていた。この体験をきっかけに、特許収入がどんなものか、特許がどのように企業の戦略に影響を与えるかなど、実感できたそうだ。
特許を持っていなければただのオペレーター!?
安武氏は「論文は実施した内容だけを書けばいいので、はるかに単純。それに比べれば特許明細書はかなり煩雑で手間がかかるが、それでも技術者は特許取得に取り組むべきだ」という。その理由として、いくつかのメリットを挙げる。最も分かりやすいのは、特許収入を得られることだ。特許が使用されるかどうかや金額についての予測はできない。だが、大した特許ではないと思っていたものが意外と大きな金額になることもある。
特許出願の際、請求項(メインクレーム、サブクレーム)や実施例を記載するが、実施例としてアイデアベースでもよいので想定される使用場面の列挙や素材を限定しないなど、なるべく特許のカバーできる範囲を広く取れるように書くことが重要になる。メインクレームよりも、この実施例がむしろ他社製品に引っ掛かることが多い。この点は、実験およびCAEから得られたデータなど、事実のみを書く論文とは大きく異なる。「技術者は自分が実際にやったことしか書かない傾向がある。そのため、『他にもこんな使い方ができるのではないか?』と常に考える練習が必要だ」(安武氏)という。
公的機関や社内の知財部門が、技術者としての能力を客観的に証明してくれるということも、特許を取得するモチベーションになる。特許を持ち、さらに収入もあれば、社内でも発言力を高められる。「管理職でも特許を持っていないことが多い。特許の取得や収入自体が、その技術の価値を証明してくれる」(安武氏)。
また「CAEの専任者だと、製品開発に直接はつながらないため、自分が役に立っているのか分からなくなることがある。自分の特許が実際の製品に使われているということは、大きな自信になる。むしろ技術開発の仕事に長年携わっているにもかかわらず、特許を持たないままであれば、ただのオペレーターと変わらないともいえる」と安武氏は述べる。
2、3回取り組めば、何となく分かってくる
電子回路設計や熱設計、シミュレーションなどのコンサルティングを行うSifoenのProject代表である加藤博二氏は、かつてパナソニックエレクトロニックデバイス(PED、現:パナソニック)に在籍し、電源装置の開発や解析ツール導入に携わるとともに、多くの特許を取得してきた。
実は、加藤氏が初めて出願した特許は、修正なしにあっさりと通ったという。拍子抜けしたそうだが、「運が良かっただけだった。その次からはボロボロで、初めの10年間ぐらいは出願しても権利化には至らなかった」と加藤氏は振り返る。当時、会社のサポートといえば「書いて出す」出願部分の研修が主で、その後に続く中間処理と呼ばれる工程は自力で経験を積むしかなかったという。
特許書類の作成では、似ている特許を調べ、それらとどう違うのかを説明しなければならない。電子回路でいえば、回路部品の組み合わせにはあらゆるパターンがあるが、似たような回路構成は第三者には全て同じに見える。電気分野の審査官が担当するといっても、ICから原子力発電までフォロー範囲が広いため、出願した分野に関する深い知識を持っているとは限らないという前提で記述する必要がある。
例えば、出願するものはACアダプター用で手のひらに乗るサイズ、先行特許は机サイズで扱う熱量も使用材料も異なるため、働きも異なるといった具合に、既存のものとは異なるということを丁寧に説明することが必要だ。「2、3回取り組めば、何を書けばよいのか、どんなレベルまで説明すればよいかといったことが何となく分かってくる」と加藤氏はいう。
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