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カシオの関数電卓はどうやって「モノ」から「コト」に移行したのかサブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(8)(3/3 ページ)

サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第8回は、世界シェアの過半を占めるカシオ計算機の関数電卓がどうやって「モノ」から「コト」に移行し、ソフトウェアビジネスによる収益化を実現したのかについて紹介する。

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既存の販路も活用してソフトウェア版関数電卓を売り込む

 ソフトウェアのライセンス購入についてはWebサイト上でのオンライン決済を可能にしている。決済が完了するとライセンスキーが払い出されて、オンラインでライセンスを有効化できるようになっている。こうして100カ国を超える国々の学校や先生、生徒に関数電卓ソフトウェアを届けることを可能にしたのだ。

 しかし、販売戦略として既存の販路の活用も忘れていない。関数電卓本体や、従来のディスクは学校の購買などの店頭で販売していたが、ソフトウェアのライセンスも同様に店頭で購入できる。シリアルコードが印刷されてマスクされたコードを店頭に並べることによって可能にしている。カードはマスクされた銀色の部分をはがすとシリアルコードが分かるようになっている。シリアルコードでソフトウェアをアクティベーションさせるキーを入手できるのだ。

ソフトウェアのライセンスコードが収録されているカード銀色部分を削るとシリアルコードが入手できる ソフトウェアのライセンスコードが収録されているカード(左)。中身はマスクされていて、銀色部分をはがすとシリアルコードが入手できる(右)(クリックで拡大)

 そして、2019年にはカスタマーエクスペリエンスを向上させている。ライセンスの実行形態はフローティングライセンスをサポートさせて、仮想環境やシンクライアントとして動作している端末上でもライセンスが扱えるような対応を施している。

 また、カードに印刷されたシリアルコードのオペレーションも改善された。従来は利用者がアクティベーション用のキーに変換させる対応を行う必要があり、分かりづらさから利用者のオペレーションに負担がかかっていた。しかし、システムアップグレードを行うことで、カードから取得したシリアルコードを使ってのダイレクトなアクティベーションが可能となり、カスタマーエクスペリエンスを飛躍的に高めることを実現したのだ。

 さらに、このソフトウェア版の関数電卓の収益化に取り組むことによって、カシオの関数電卓のビジネスにも、今までにないさまざまな変化がもたらされることになった。ソフトウェアのトライアルができることによって相乗効果が生まれ、ハードウェア製品である関数電卓本体の売り上げにも寄与している。ソフトウェアが、関数電卓本体の優れた価値をプロモーションする役割を果たしたのだ。

コロナ禍においても世界の数学教育に貢献するソフトウェア

 コロナ渦においても、カシオの関数電卓のソフトウェアビジネスは世界の教育事情に貢献している。世界中でロックダウンや自宅待機を余儀なくされ、学校に通えない多くの先生と生徒に半年間の無償ライセンスを提供した。これによって、自宅にいながら関数電卓ソフトウェアを利用して学習できるようになった。このような対応は、ハードウェア製品や旧来のソフトウェアビジネスのままでは実現が難しかっただろう。カシオはライセンス履行のデジタル化によって、時代の変化に柔軟に対応し、新たな取り組みを早期に実現したのだ。

筆者プロフィール

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前田 利幸(まえだ としゆき) タレスDIS CPLジャパン株式会社(日本セーフネット株式会社/ジェムアルト株式会社)ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 シニアアプリセールスコンサルタント ビジネス開発部 部長

ソフトウェアビジネスに取り組む企業に対して、マネタイズを実現するためのコンサルティングやトレーニング、ソリューション提案を実施。全国各地で収益化に関するセミナーや講演活動を展開。IoT関連企業でシニアコンサルタントを経て現職。同志社大学 経営学修士(MBA)。二児の父。

Sentinelソフトウェア収益化ソリューション
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