検索
連載

カシオの関数電卓はどうやって「モノ」から「コト」に移行したのかサブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(8)(1/3 ページ)

サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第8回は、世界シェアの過半を占めるカシオ計算機の関数電卓がどうやって「モノ」から「コト」に移行し、ソフトウェアビジネスによる収益化を実現したのかについて紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 顧客が何を必要としているのか、それを知ることがマネタイズを実現するファーストステップだ。「モノ」ではなく「コト」を売るとは顧客を理解することであり、顧客が必要とする「コト」は時代や環境の変化によって移り変わる。その求められるニーズに適切に答えられる企業こそが、これからの時代に生き残ることができるのは言うまでも無いだろう。

 われわれの身の回りにある身近な製品も、多くが時代の変化に柔軟に対応してきた。そこには必ずソフトウェアが重要な役割を担い、ビジネスや企業の戦略に影響を与え、イノベーションをけん引している。ソフトウェアの存在が、社会のさまざまな発展に貢献をしていることを改めて認識する必要があるだろう。例えば、世界的なコンシューマーエレクトロニクスメーカーであるカシオ計算機(以下、カシオ)も、製品で教育事業に貢献し、ソフトウェアのサブスクリプションに取り組んできた企業の一つだ。

「fx-CG50」のWebサイト
カシオのカラーグラフ関数電卓「fx-CG50」のWebサイト。fx-CG50は、3Dグラフの描画やPythonによるプログラム作成も可能だ(クリックでWebサイトへ移動)

 今回は、カシオがソフトウェアによるサブスクリプションビジネスをなぜ必要とし、どのようにして実現させたのか、そのプロセスについて考えてみたいと思う。

⇒連載「サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代」バックナンバー

世界中で愛されるカシオの製品と「関数電卓」

 カシオは、時計、電子音楽器、電卓、電子辞書など、人々の生活に身近で世界中で愛される製品を世に送り出している。代表的な製品は数多くあるが、本日は電卓にフォーカスを当ててみたい。

 電卓と言っても、スマートフォンに標準付属しているような普通の電卓ではない。四則演算だけでなく、sin、cos、tanといった三角関数の利用や科学技術計算を目的とした「関数電卓」と呼ばれるものだ。世界100カ国に61モデルを展開する同社の関数電卓は、世界全体で50%以上のシェアを獲得しており、年間出荷台数は2300万台を超えている。学習用ツールとして圧倒的な地位を築いているのがカシオの関数電卓なのだ。

 この関数電卓そのものは完全なハードウェア製品だが、その関数電卓をソフトウェアとしてPC上で動作させる「ソフトウェア版の関数電卓」が存在している。実はソフトウェア版の関数電卓の存在によって、数学教育におけるさまざまな学びのシーンに貢献できているのだ。

関数電卓のソフトウェア版が誕生した背景

 1990年代後半から世界のICT環境はめざましい発展を遂げ、あらゆる分野でPCが爆発的に普及した。2000年代前半になると、学校教師の教育ツールとしてPCが扱われるようになり、プレゼンテーションや教材作成のために活用されるようになった。

 当初の関数電卓を使った数学教育では、関数電卓の絵が描かれた巨大なポスターを黒板に貼って、関数電卓の操作方法や勉強方法の授業が行われていた。しかし、現場の教師がPCを利用するようになると、PC上で関数電卓を動作させて、画面をプロジェクターに表示させて授業に活用できるようになる。この流れを受けて、2003年に誕生したのがカシオのソフトウェア版の関数電卓である。

 ソフトウェア版の関数電卓の登場によって、教育水準の向上に貢献することになる。現場の教師は画面上の操作で実演し、生徒は手元の関数電卓で計算結果を確かめることができるようになる。授業中のプレゼンテーションに活用できるだけでなく、ソフトウェア版の関数電卓によって教材作成の効率化も図れるようになった。

 そして、ソフトウェア版の登場によって、同型のハードウェアの関数電卓が生徒に売れるようになった。教師が採用するソフトウェアは、関数電卓を拡販、収益化させるためのツールとしての役割を果たしたのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る