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他社が製品を模倣した! とるべき法的アクションやリリース作成時などの注意点弁護士が解説!知財戦略のイロハ(8)(1/3 ページ)

本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略構築を目指すモノづくり企業が学ぶべき知財戦略を、基礎から解説する。今回は、他社が自社製品を模倣した場合、どのような法的措置を講じる選択肢があるのか、あるいはその逆に、模倣していると自社が訴えられた場合の対処法を解説する。

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 連載第7回の前回は、製品改良時や海外展開時の留意点を紹介しました。今回は、他社が自社製品を模倣した場合を想定し、他社への警告などのアクションをとる際の留意点を説明します。また、その逆に、自社の製品について他社から警告などを受けた場合の留意点も併せて解説します。

⇒連載「弁護士が解説!知財戦略のイロハ」バックナンバー

他社が製品を模倣した場合の対処法

 新製品を市場にリリースした後、自社製品を他社が模倣してくる場合があります。この時、自社製品に関して特許などの知的財産権を取得していれば、模倣企業に対していくつかのアクションが取れます。モノづくり企業の模倣品対策については、第1回の連載で、「各種プラットフォームへの通報と税関差し止めの方法」などを説明しました。今回解説するのは、その他の対応策です。

事前検討事項(1)〜反論可能性〜

 自社の知的財産権を活用して、他社にオフェンスを仕掛ける方法はさまざまなものがあり得ます。ただ、いずれにせよ検討する必要があるのは

  • 自社の主張に対して、反論がなされ得る可能性*1)
  • 他社が(他社自身の)知的財産権を活用して、何らかの法的措置をとる可能性

の2点です。以下では、説明を分かりやすくするため、自社を「A社」、他社を「B社」と表記して解説します。

*1)特許事件において、予想される争点を整理したい場合、高石秀樹『論点別特許裁判例事典(第2版)』(経済産業調査会、2018年)に掲載されている実際の裁判例が参考になる。

 反論可能性について、例えばB社は「そもそもA社の特許が無効である」といった反論(=無効論)の他、「(問題となったB社の行為が)特許権の権利範囲に属する行為ではない」という反論(=非充足論)を出してくる場合があります。

 無効論は知的財産権自体の存続に関わります*2)、3)。また、非充足論が焦点化する場合、裁判所が問題の行為を非充足だと判断すると、その旨が公になり、当該特許権が第三者的立場の企業に対して持っていた、模倣を防ぐためのけん制力に影響が出ることを考慮しなければいけません。

*2)ただし、侵害訴訟において無効の抗弁が認められた場合も、当該事件以外や第三者との関係において当該特許が無効であることが直ちに確認されるわけではないことに留意されたい(cf.特許庁に対する無効審判請求)。

*3)無効論の反論が予想される場合、例えば特許権の場合は、訂正によって無効理由を解消できるか否か、また、解消した上で相手方のプロダクト/サービスが当該特許発明の構成要件を充足するかを検討する必要がある。

 他社が法的措置を取る可能性についていえば、例えば、B社が同社保有の特許権や商標権をA社が侵害したとして権利行使を行う「カウンター」の可能性を十分に検討しておくべきでしょう。

事前検討事項(2)〜立証可能性〜

 仮にB社がA社の権利を侵害していることについて疑義がなかったとしても、裁判になった場合には、それを立証できるか否かが極めて重要な点になり得ます。そのため、B社の侵害行為に関する証拠については、アクションを起こす前にあらかじめ可能な限り収集しておきましょう。そもそも、権利形成の時点から立証可能性を考慮して織り込んでおくことが望ましいといえます。この点は、これまでの連載でも紹介した通りです。

警告状の送付先には要注意

 権利行使を行う場合、相手方に警告状を送ることになります。この場合、警告状の形式(配達記録などが残る通常の郵便で送るか、内容証明で送るか)、作成者の名義(会社名義の場合は代表者かそれ以外のメンバーの名義か、代理人名義か)が問題となります。この点は、警告の目的や相手方との関係性を踏まえて、検討する必要があります。

 なお、警告状を送る際には、送り先は慎重に検討する必要があります。警告状を侵害品の製造者や侵害品の販売者ではなく、被疑侵害者の取引先などに不用意に送ることは避けましょう。虚偽の事実を告知、流布して被疑侵害者の営業上の信用を害したものとして(不正競争防止法2条1項21号)、自社が被疑侵害者から訴えられる可能性が出てきます。

警告状を送っても問題が解決しなければ?

 警告状を送付して任意の話し合いの場を通じても問題が解決しない場合、法的手続きに進むという選択肢がとれます。その場合、一般的な法的手続きと同様に、訴訟手続、仮処分の手続、調停、仲裁といった法的プロセスを経ていくことになります。以下では、その概略をご紹介します。

通常訴訟

 知財関係の事件の多くは、東京地裁か大阪地裁に専属管轄*4)や競合管轄*5)が設定されており、これらの裁判所で訴訟提起することとなります。日本の知財訴訟には、海外の国と比べていくつかの特色があります。例えば、損害賠償の種類として懲罰的賠償は認められません*6)。ただ、権利濫用(らんよう、民法1条3項)に該当しない限り、差し止め請求が認められる(特許法100条等)ため、米国に比べると差し止め請求が通りやすといえます*7)

*4)民事訴訟法の管轄の原則規定(民事訴訟法4条、5条)によれば、特許権、実用新案権、回路配置利用権、またはプログラム著作権に関する訴訟は、東日本地域の地方裁判所(東京、名古屋、仙台又は札幌の各高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所)の管轄権内では東京地裁に、西日本地引の地方裁判所(大阪、広島、福岡、高松高等裁判所の各管轄区域内)の管轄権内では、大阪地裁の管轄に専属する(民事訴訟法6条1項)。

*5)意匠権、商標権、著作者の権利(プログラム著作権を除く)、出版権、著作隣接権、もしくは、育成者権に関する訴え、または不正競争防止法2条1項に規定する不正競争による営業上の利益の侵害にかかる訴えは、(当事者の選択により)東日本地域の地方裁判所が管轄権を有する場合は東京地裁、西日本地域の地方裁判所が管轄権を有する場合は大阪地裁に訴訟提起できる(民事訴訟法6条の2)。

*6)最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁【万世工業事件】

*7)米国では、回復不能の損害を被っていること、損害を補償するのに制定法により提供される救済手段では不十分であること、永久的差し止め命令が下された場合に原告の損害に比べて被告の困難が小さいと想定されること、永久的差し止め命令で公共の利益が阻害されないこと、という4要件が充足されない限り差し止めが認められない(米国特許法283条等、eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C., 547 U.S. 388 (2006).)

 なお、知的高等裁判所(以下、知財高裁)の資料(*リンク先PDF)によると、訴訟提起後、第一審判決までの平均審理期間は2018年度で約1年(12.3カ月)とされています。これより早期に判決をもらいたいという場合は、差し止め請求のみ行えば(権利侵害が認められた場合の)損害賠償金を算定する審理が不要になるため、審理期間をもう少し短くできるかもしれません。

 平均審理期間自体は年々短縮化の傾向にあります。後述する「仮処分の申し立て」との組み合わせ次第では、時機を逸することなく紛争を解決できる可能性も見えてきます。

 ちなみに、控訴する、あるいは控訴された場合の(係属の)知財高裁における平均審理期間は約7.7カ月となっています(*リンク先PDF)。一審と比較すれば、審理期間はやや短くなります。和解による解決に至らない場合には、一審の敗訴当事者が控訴することで、控訴審ではこの程度の審理期間を要することを踏まえ、訴訟戦略を考える必要があります。

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