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「実物大の動くガンダム」を実現した道筋とは、プロジェクト関係者が経緯を語るJIMTOF2020 Online(2/3 ページ)

2020年12月19日、“実物大の動くガンダム”が横浜の大地に立つ。アニメ「機動戦士ガンダム」の40周年プロジェクトとして開発された、このガンダム「RX-78F00」のプロジェクトはどのように始まり、どうやって実現したのか。「JIMTOF2020 Online」において、プロジェクト関係者によるトークイベントが開催されたのでその模様をお伝えする。

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欠けていたピース、それは専任の人材

 しかしその後、協力してくれるパートナーを集め、動くガンダムを具体化する段階になると、大きな問題に直面することになった。それは、プロジェクトマネジャーの不在である。

 当時について、宮河氏は「みんなバラバラで、好き勝手に動いている。誰かまとめる人がいなければダメなんじゃないかと、3〜4カ月も悩んだことがあった」と打ち明ける。このタイミングで、GGCテクニカルディレクターに就任したのが石井啓範氏だった。

 石井氏は当時、建設機械メーカーで勤務、建機ロボット化の研究開発に従事していた。最初は、GGC側から会社に参画の打診があり、結果的に会社としての参画は見送ったものの、個人的な興味から、オブザーバー的にGGCの連絡会議に参加するようになったという。

 石井氏は、会議の様子を見ながら、「各企業はそれぞれの要素技術は開発できるが、誰かが取りまとめる必要がある。その役割は、どこか1社が担当するのではなく、専任の個人がいい」と感じていたそうだ。それならばと、思い切って会社を辞め、自ら参加することを決めた。

GGCテクニカルディレクターの石井啓範氏
GGCテクニカルディレクターの石井啓範氏(クリックで拡大)

 宮河氏は「石井さんがやってくれると聞いてほっとした」と安堵。橋本氏は「会社を辞めるのを応援した。そうじゃなかったら、これはできなかった」と、存在の大きさを強調する。

 石井氏は、プロジェクトを進める上で、4つのことを行ったという。1つ目は「ゴールを明確にすること」。ボヤッとした概念ではなく、定量的な形で目標を示し、意識の共有を図った。2つ目は「ゴールのために必要な開発項目を洗い出すこと」。安全に関するリスクアセスメントなど、抜けていたものをここで補った。

 3つ目は「パートナー各社にそれぞれのゴールを割り当てること」。4つ目は「それをいつまでに達成するかというスケジュール管理」。途中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による緊急事態宣言があり、作業が中断したこともあったが、その遅れがなければほぼ予定通りといえるペースで作業を進めることができた。

 GGCには、さまざまな分野の企業が集まっている。メカ、ソフト、建築、デザインなど、それぞれで常識や用語も異なり、石井氏は「同じ日本語をしゃべっているのか?」と、意思疎通の難しさを感じたという。ただ、分からないままの状態にしないよう気をつけたそうで、分からないことは分かるまで聞いて、食い違いのないように努力したとのこと。

 各社の協力については、石井氏は「みんなガンダムを動かしたいという思いが強かった。なにか課題があっても、いろんな方向から解決策の提案が出てきた。普通なら『ウチの領分じゃない』となりそうなものだが、それがなかった」と驚く。橋本氏は「みんなで同じものを目指す体制ができたのが良かった。やはりみんなガンダムが好き」と感謝した。

「前例がない」ということの難しさ

 こんな巨大なロボットを動かすというのは、前例のないビッグプロジェクト。それだけに、「初めて作る機械システムなので、どんなことが問題になりそうなのか、想像するしかなかった」と、石井氏は難しさを語る。参考になりそうなものが何もないため、難しさを予想するのも難しい、というわけだ。

 しかも、パーツごとにさまざまな企業が担当しており、定例会議で集まるのは2週間に一度。もしその段階で間違いに気がついても、大きな時間のロスになってしまう。

 実際のモノ作りにおいて、石井氏がGGCテクニカルディレクターとして注意したのは、「手離れの良さ」だったという。内部の細かいことは各社に任せ、インタフェースだけは明確にしておく。そのため、各社が担当する分野の切り方を考え、調整するのが大変だったそうだ。

 ハードウェアのように、目で見て分かるようなものは、明確に切り分けやすい。しかし、ロボットはソフトウェアも含めたシステムなので、切り分けがなかなか難しい。細部を詰めていくと、「信号が違う」など、かなり食い違いもあって大変だったという。

 これからこのRX-78F00は、1年以上、「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」で稼働する。このチャレンジのレガシーを問われた橋本氏は、「きちんとログを残すことが重要」と指摘。「それが次のチャレンジの役に立つ。機械的なログはもちろん、人間の動きのログもしっかり記録してほしい」と、ノウハウの蓄積に期待した。

 石井氏は、「これくらいの大きさのものが動けるということを、ここで提示できた。じゃあ他のものも動かしてみよう、とつながっていくのがレガシーになるだろう」と述べる。そして「いろいろ想定はしていたが、こうしておけば良かったという経験が無数にある。またチャレンジすれば、もっと良いものができると思う」と自信を見せた。

 このRX-78F00は、宮河氏にとっても貴重な経験になった。「サラリーマンになってから、会社でいろいろ作ってきた。大体は『そうだよね』というものができてくるが、これは初めて、自分の想像を超えていた」と、宮河氏は絶賛。「ありがたいしうれしかった。何でも言ってみるものだな」と笑った。

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