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パナソニックが実践するデジタルマニュファクチャリング技術の適用と価値づくりHP デジタルマニュファクチャリング サミット 2020(1/2 ページ)

日本HPは、オンラインイベント「HP デジタルマニュファクチャリング サミット 2020」を開催。基調講演に登壇したパナソニックは「デジタルマニュファクチュアリング時代の製造メーカーの価値づくりの未来」と題し、同社におけるデジタルマニュファクチャリング技術の量産適用の取り組み、メーカーとしての価値づくりの考え方などを披露した。

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 日本HPは2020年10月26〜30日の5日間、“経営戦略のための3Dプリンティング適用”をテーマに、オンラインイベント「HP デジタルマニュファクチャリング サミット 2020」を開催した。

 同イベントの基調講演では「デジタルマニュファクチュアリング時代の製造メーカーの価値づくりの未来」と題し、パナソニック インダストリアルソリューションズ社 電子材料事業部 企画センター 兼 コーポレート戦略本部 経営企画部 未来戦略室 特命主幹の中西多公歳氏が登壇。パナソニックにおけるデジタルマニュファクチャリング技術の取り組みと量産適用、メーカーとしての価値づくりの考え方などについて紹介した。

パナソニックが考えるデジタルマニュファクチャリングの世界

パナソニック インダストリアルソリューションズ社 電子材料事業部 企画センター 兼 コーポレート戦略本部 経営企画部 未来戦略室 特命主幹の中西多公歳氏
パナソニック インダストリアルソリューションズ社 電子材料事業部 企画センター 兼 コーポレート戦略本部 経営企画部 未来戦略室 特命主幹の中西多公歳氏

 中西氏は講演の冒頭、創業者である松下幸之助氏のエピソードに触れ、「“Manufacture”とは、“手で作ること”がもともとの由来であり、モノづくりというのは人の手から新しい価値を作り出すことだ」と述べる。そして、かつての職人の手によるモノづくり/価値づくりが需要の増加に伴い、家内制手工業、工場制手工業へと変遷し、人手によるモノづくりの効率化が加速。そこからさらに機械化が進み、現代に通じる工場制機械工業へと発展してきた経緯に触れ、「こうした工業の全ての進化は、モノを大量に連続生産するための効率向上を目指し、発展してきたものだ」(中西氏)と説明する。

モノづくり=価値づくりモノづくりの変遷 (左)モノづくり=価値づくり/(右)モノづくりの変遷について ※出典:パナソニック [クリックで拡大]

 そのような現代のモノづくりにおいて、「デジタルマニュファクチャリング」とはどのようなものか。中西氏はその位置付けについて次のように説明する。

 「デジタルマニュファクチャリングというのは、もともとデザイン/試作、趣味の領域と、航空宇宙や医療といった、部品コストと数量のバランスがとれた領域で発展してきたものだ。現在は、コストや数量のバランスの面で産業領域に適用しやすくなってきたことから、自動車産業を中心にさらなる発展を遂げようとしている」(中西氏)

デジタルマニュファクチャリングの適用領域
デジタルマニュファクチャリングの適用領域 ※出典:パナソニック [クリックで拡大]

 また、デジタルマニュファクチャリング市場のさらなる拡大に必要な要素として、

  1. デジタルマニュファクチャリングにしかできないことの探究
  2. デジタルマニュファクチャリング全体の品質基準の拡大
  3. 生産性の向上

の3つを挙げる。

 そして、パナソニックでは、デジタルマニュファクチャリングの適用について、「金属部品の製造」「樹脂部品の製造」という一般的に言われる活用に加えて、「『金属3Dプリンティング技術を金型に適用する』という方向性で、デジタルマニュファクチャリングの世界を捉えている」(中西氏)という。

デジタルマニュファクチャリング適用の検討プロセス

 次に、中西氏はパナソニックにおけるデジタルマニュファクチャリング適用の基本的な考え方(検討プロセス)について紹介した。

デジタルマニュファクチャリング適用の基本的な考え方
デジタルマニュファクチャリング適用の基本的な考え方 ※出典:パナソニック [クリックで拡大]

 まず、検討の起点となるのが、造形技術について知ることだ。「さまざまな手法がある中で、それらがどのような特徴を持ち、どのくらいの精度が出せて、どのような価値を生み出すことができるのかをきちんと知ることが最初の起点となる」(中西氏)。そして、そこから「なぜこの技術を使うのか?」という目的や大義を明確化し、機能や構造などについて具体化していく。その後、製造方法をあらためて俯瞰して検討し、QCD(品質、コスト、納期)を見極めて、それが従来工法への適用なのか、デジタルマニュファクチャリングへの適用なのかを決定する。パナソニックでは、こうした基本的な考え方に基づき、デジタルマニュファクチャリング技術に向き合ってきたという。

 「古くは1990年代から『商品開発プロセスの革新』をテーマに、光造形や金属光造形の技術を適用し、試作開発や試作用金型の製作に取り組んできた。2000年代に入ると、デジタルマニュファクチャリング技術の量産適用について本格的な検討を始め、独自技術である『ハイブリッド金属造形』を確立。現在、生産用の金型製作でこの技術を実際に活用している」(中西氏)

 ハイブリッド金属造形とは、一言でいうと、金属による3Dプリンティングと切削による研磨/仕上げ工程を同時に行うことができる加工技術だ。この技術は既に実用化されており、2008年にはパナソニック エコシステムズ社へ第1号機が導入され、量産の現場に、ハイブリッド金属造形技術で作られた金型が用いられているという。

 では、なぜパナソニックは金型製造にデジタルマニュファクチャリング技術を適用したのか。そのポイントとなったのが、既存の品質基準の活用と金型のノウハウだ。「デジタルマニュファクチャリングのために、独自の新たな品質基準を作り、それを適用していくには多大な時間とコストがかかる。そこで、パナソニックは既存の品質基準を適用する中で、デジタルマニュファクチャリング技術をうまく取り入れることができないかと考えた。パナソニックはメーカーとして多くの製品を世に送り出しており、従来工法である金型に関する知見を豊富にもっている。そこで、金型製造をターゲットとし、既存の品質基準を適用する中で、デジタルマニュファクチャリング技術を活用することになった」(中西氏)。

 また、単なる従来工法との置き換えではなく、デジタルマニュファクチャリング技術にしかできないことを、金型製造にどう反映していくかも重要なポイントになる。パナソニックが独自開発したハイブリッド金属造形技術は、(1)短期間で高精度かつ複雑な金型形状を作り出すことができ、(2)従来加工では実現困難な内部構造(例:金型内部に複雑な冷却回路を付加)を実現し、(3)固化密度をコントロールすることで従来の金型ではなし得なかった機能性を成形物にもたらすことができるようになったという。

 この技術は、パナソニックが保有する金型に関する豊富な知見と、デジタルマニュファクチャリング特有の機能発現という2つの要素により実現したもので、金型製造とデジタルマニュファクチャリングを見事に融合させた、新たな量産適用のアプローチといえる。

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