解析結果を左右する「構造」と同じくらい重要な“その他の要因”とは:構造解析、はじめの一歩(8)(2/3 ページ)
「構造解析」を“設計をより良いものとするための道具”として捉え、実践活用に向けた第一歩を踏み出そう。第8回は、解析結果を大きく左右する「構造以外の要因」について着目し、その重要性をステップ・バイ・ステップで分かりやすく解説する。
有効数字
「有効数字」とは、「JIS K0211:2013 分析化学用語(基礎部門)」により次のように定義されています。
測定結果などを表す数字のうちで、位取りを示すだけのゼロを除いた意味のある数字
この“意味のある数字”という部分が重要です。
四則演算において有効数字をどう考えるかも決まっています。例えば、かけ算については以下の規則があります。
有限要素法の行列計算と有効数字の考え方は、直接は関係ありませんが、何が言いたいかというと、「有効数字の桁数が異なる数字のかけ算では、答えは有効数字が少ない方となる」ということです。
前ページ図3の最後の式をご覧ください。かけ算です。数学的に何の意味もありませんが、これを構造解析の3要因と等価的に置き換えてみます。
構造をいくら精密に作っても、荷重がいい加減だと、結果である変形量は荷重の精度に引っ張られてしまう、ということです。
構造と荷重と拘束の粒度を合わせなければ、一番いいかげんに設定した要因の粒度の精度となってしまうということです。
拘束条件の設定
有限要素法における拘束条件は、節点の自由度が固定されているのか、自由なのか、この二者択一で設定します。
一方で、固定方法にはさまざまな方式があります。ボルトとナット、リベット、接着剤、溶接、スナップフィットなど……。こんな多彩な固定方法を節点の自由度の固定、フリーの二者択一で表現しようというのが、そもそも無理な話です。
まず、理解しなくてはならないのは、“拘束条件は荷重によって変わる”ということです。その実例を示しましょう(図4)。
頑丈な台の上に、鉄板がすみ肉溶接で固定されています。解析の着目物体は鉄板です。下の台はモデルには含まれません。すみ肉溶接なので鉄板の底面は縁の部分を除き、下の台に接触しているだけです。
鉄板底面の4辺は溶接なので完全に固定です。この鉄板の上面を上に引っ張ると固定されている台との間に空間ができます。つまり、鉄板裏面のZ方向の自由度は「フリー」となります。
逆に、この鉄板に対して上から押す荷重をかけると、鉄板の底面は下に台があるため、下方向に変形することができません。よって、鉄板裏面のZ方向の自由度は「固定」となります。
荷重の方向によって設定を変えられる拘束条件などありません。「固定」もしくは「自由(フリー)」しかありません。
このような条件の中で、より正確な拘束条件を設定するには、固定する対象を含めたアセンブリ解析が必要です。接触条件を定義しなくてはならない分、ハードルは上がりますが、正確な拘束条件を設定するためにはやむを得ません。
接触を含む解析は、非線形解析の範疇(はんちゅう)ですが、最近の設計者向けのCAEツールでは、接触状態の自動検知と設定ができるようになっています。
コートやカバンを掛けるフックの例を図5に示しました。有限要素法の講習会でよく使われる例題です。
ソフトウェアの講習会は操作を習得することが目的ですので、通常はフックの壁に接する面全体を固定で完全に拘束します。しかし、これだと実際の固定状況とは程遠いものとなります。
実際のフックの固定状況はどうでしょうか。フックに荷物を掛ければ、フックの下側は壁にめり込もうとしますし、上側は壁から離れようとします。このように複雑な拘束条件は節点の自由度の固定とフリーだけでは設定できません。
フックを固定する壁を含めて解析してみます。壁は1枚の板で構いませんし、壁そのものは完全固定します。
結果は図5(右側)に示したと通りです。フックの上側には壁との間に隙間が空きますし、フックの下側は壁にめり込みます。最大変形量はもちろん、応力の分布も異なる結果となります。
拘束条件をできるだけ正確に入れるコツは、固定される対象のモデルを含めてアセンブリとして解析することです。さらに、点での拘束、線での拘束はダメです。拘束部分は必ず「面」となることも意識してください。
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