MaaSは地域の課題解決に貢献できるか、実証実験で見えてきたこと:モビリティサービス(1/2 ページ)
2020年9月2日にはオンラインシンポジウムを開催し、全国から事業者が参加した。シンポジウムでは「地方版MaaSにおけるデータ連携」と「低密度・中山間地域における地域課題解決」をテーマとした2つのパネルディスカッションを行った。
経済産業省と国土交通省は、「スマートモビリティチャレンジ」プロジェクトの一環として、2019年6月に「スマートモビリティチャレンジ推進協議会」を立ち上げた。シンポジウムやキャンペーンサイトでのマッチングなどを実施し、新しいモビリティサービスの社会実装を通じた移動課題の解決や、地域活性化を目指す地域や企業の取り組みを推進している。
2020年度は、先進的に取り組む地域や企業における新しいモビリティサービスのベストプラクティスや課題などを共有。さらに、移動課題の解決や地域活性化に向けて新しいモビリティサービスに取り組もうとしている地方自治体や企業などの連携を進める機会の提供に力を注いでいる。2020年9月2日にはオンラインシンポジウムを開催し、全国から事業者が参加した。シンポジウムでは「地方版MaaSにおけるデータ連携」と「低密度・中山間地域における地域課題解決」をテーマとした2つのパネルディスカッションを行った。
小田急、KDDIらが登壇
「地方版MaaSにおけるデータ連携」に関するパネルディスカッションでは、「2つの地域でのオンデマンド交通の実証と統一したユーザー接点の開発」(小田急電鉄の西村潤也氏)、「南予MaaS実証実験のご紹介」(KDDIの小泉安史氏)、「高蔵寺ニュータウンにおけるモビリティサービス実証実験」(高蔵寺スマートシティー推進検討会代表で名古屋大学の金森亮氏)、「新潟都心の魅力向上に資するMaaSデータ連携プロジェクト」(代表団体エヌシーイー代表者の高橋貴生氏)、「広島県におけるモビリティデータプラットフォーム構築と今年度実証実験について」(MaaS Tech Japan代表取締役の日高洋祐氏)と、パネリストが現在取り組んでいる実証実験の概要を紹介した。続いて、データ連携の効果や課題についてパネリストが議論した。
西村氏は「鉄道業では、各社のシステム構成がクローズドな場合が多く、運営事業者同士の連携がシステム的に難しくなっている。そうした中で、当社は2019年にJR東日本と東京都立川市でリアルタイムデータを用いた路線検索用のアプリを作成し、運用した。一体的にデータを出すことで利用者の利便性が向上することが見て取れ、全体的なものよりも局所でデータ連携を行い、それが重なっていってスタンダードになっていくということが、1つのポイントとなる」と成功事例を紹介した。
小泉氏は「個人情報の壁があり、データ連携は難しいと思っていたが、今回はデータを各社に区切るという形にした。データを共有するのではなく、各社の持っているデータを最大限利用するという方法を取っている。OD(Origin Destination)データについては簡易的に低コストで取得するという方法を用い、地方の観光地で持続的に行うということを考えた」と、同社の取り組みを説明した。
高齢化、免許返納……住民のことをどのように把握するか
金森氏は「免許を返納した人に対するサービスをトライアルとして使っていただきたいが、免許返納の意向を示した人をどういうふうに把握できるのかという難しい課題がある」と高齢者が多い地域での問題点を紹介した。高橋氏は「都市全体のスケールや中長期的な視点で考えるときに、各種の交通手段や効率化、最適化などがキーワードとなり、マルチモーダルなどデータ連携が必要となる」と述べた。
日高氏は「高齢化や人口減少という問題があり、データが取りにくい状況だが、広島県庄原市は定量的にデータがそろっており、アンケートの回収率も5〜6割あることから、実証実験には取り組みやすい面がある。これを今後、他の地域にどう展開していくか考えていきたい」と意欲を示した。
また、国や他企業への要望については、「先進の事例などをもっと共有できる場を開いてもらえると助かるので、こうした取り組みを続けていただきたい」「利用者の立場を考えるとボトムアップのサービス設計がもっと柔軟にできると望ましい」「データを販売したいので、異業種、行政からどんなデータが欲しいのか教えてほしい」「地域の大学や研究機関に学術的な視点から協力してもらえれば、次代の事業を担う人材を生み出すことにもなる」などの意見が寄せられた。
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