スタートアップ支援施設の窓が1000枚の調光ガラスに、NIMSがつくば市と実証実験:組み込み開発ニュース
NIMSは、新たに開発した「調光ガラス」について、長期使用に対する動作安定性と切り替えの操作性向上に関する実証実験を開始する。1000枚以上の調光ガラスを木枠に入れて「つくばスタートアップパーク」の窓の内側に設置し、2020年9月8日〜2021年3月まで実証実験を行う。
NIMS(物質・材料研究機構)は2020年9月8日、新たに開発した「調光ガラス」について、長期使用に対する動作安定性と切り替えの操作性向上に関する実証実験を開始すると発表した。NIMSが本拠を置く茨城県つくば市の支援を受けて、1000枚以上の調光ガラス(1枚当たりの大きさは10×10cm)を木枠に入れてスタートアップインキュベーション施設「つくばスタートアップパーク」の窓の内側に設置する。実証実験の期間は同年9月8日〜2021年3月で、施設利用者からの要望に合わせて切り替えの操作性などの改良を進める。
遮光状態と透明状態をスイッチで自由に切り替えられるエレクトロクロミック(EC)調光ガラスは、カーテンやブラインドを必要としない次世代窓として注目されている。航空機の「ボーイング787」などでの採用事例はあるものの、消費電力や発色性の面で課題がありオフィスなどへの普及は広がっていない。
今回の実証実験に用いられる調光ガラスは、NIMS 機能性材料研究拠点 電子機能高分子グループ グループリーダーの樋口昌芳氏の研究グループが開発したEC材料「メタロ超分子ポリマー(有機/金属ハイブリッドポリマー)」を用いた製品である。メタロ超分子ポリマーを用いた調光ガラスは、既存材料に比べて低消費電力で駆動し発色性にも優れ、また含まれる金属種を変えることで、青、緑、紫、黒などさまざまな色に変えることができるなどの特徴を備えている。
また、2020年6月には、東京化成工業と共同でメタロ超分子ポリマーを安定的に供給できる合成プロセスの確立を発表している。材料の安定供給にめどが付いたことから、メタロ超分子ポリマーを用いた調光ガラスを数百枚単位で製造し、建物に設置した状態での耐久性や操作性を検証、向上させる実証試験場所の選定を行っていた。
つくばスタートアップパークでの実証実験では、紫色と青色のメタロ超分子ポリマーを用いて作製した調光ガラスを設置し、長期使用における動作安定性を確認するとともに、施設利用者からのアンケート結果などを参考に操作性を含めたデバイス全体の改良も図る。また、実証実験中の調光ガラス窓をショーケースとみなし、つくば市内外の製造業に積極的に技術を紹介することで、将来の実用化に向けたサプライチェーンの構築も目指すとしている。なお、調光ガラスは、木枠に入れた状態で既存の窓の内側に後付けで設置するので、実証実験の後で調光ガラスを取り外して、原状復帰することが可能だという。
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