ArmマイコンのRTOSとして充実する「Mbed OS」に一抹の不安:リアルタイムOS列伝(5)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第5回は、プロセッサコアIPベンダーのArmが独自に展開する「Mbed OS」を取り上げる。
多数のライブラリを利用可能でハードウェアも充実、しかし……
さてRTOSのコア部はそんな訳で大した機能は提供されていないのだが、Mbed OS自体は先の図1でも分かるように猛烈な量のライブラリを利用可能で、当然APIも充実している。実際に、Mbed OS 6.2のFull API Listを簡単にまとめてみると、以下のような項目が並んでいる。
- RTOS:ConditionVariable/EventFlags/Idle loop/Kernel interface functions/Mail/Mutex/Queue/Semaphore/ThisThread/Thread
- Event handling:EventQueue/UserAllocatedEvent
- Driver:Serial(UART)/SPI/Input&Output/USB/Others(CAN/Flash IAP/I2C/I2C Slave/MbedCRC/ResetReason/Watchdog)
- Platform:Time/Power/Memory/Others
- Data storage:File system/BlockDevice/PSA compliant
- Connectivity:Network socket/Network interface/Secure socket/BLE/NFC/LoRaWAN
- Security:DeviceKey/Crypto/PSA initial attestation/PSA lifecycle/TLS
対応ハードウェアも充実している。最新の一覧はこちらのWebサイトで確認できるが(図4)、原稿執筆時点で言えば対応モジュールが9種類、対応コンポーネンツが551種類、対応ボードが164種類となっている。当然のことながらArmのCortex-Mベースの製品に限られるが。
機能は充実しているし、ドキュメント類も結構そろっている(Mbed OS 6に関して言えば、まだ“Page not found”がしばしば出現するが、Mbed OS 5はそれも少ない)。もちろん無料で利用できる。しかもIoTプラットフォームとの連携については、ArmのISGが手掛ける「Pelion」だけでなく、最近は公式サンプルとしてAWSへの接続例が示されたりするなど、幅広い用途で利用可能となっている。
懸念事項は冒頭に書いた、ISGの行く末がまだ明確でないというあたりだろうか。これはArm本体の売却とも絡む話であるが、現状のMbed OSはいわばコストセンターであって、Mbed OSそのもので利益は生み出さない。もちろん、エコシステム全体を考えれば、ここで多少コストがかかってもトータルで利益が生み出されるわけだが、今後どこかの会社に売却されたりすると、この方針そのものがいきなり変更になりかねない。そういう意味でも、Arm自身の将来がもう少し安定しないと、ちょっと手を出すのが難しいといったところだろう。
あと、Arm以外のプラットフォームをサポートしないというのも、一応ネガティブ要素ではある。ただCMSIS-RTOSをベースにしている時点で、他のアーキテクチャへの移植は難しそうではあるのだが。
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