機械学習で販売計画の精度はどこまで向上できるか、人の意志決定は不要なのか:製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所(3)(2/3 ページ)
サプライチェーンにおける業務改革を推進する中で、デジタルがもたらす効果や実現に向けて乗り越えなければならない課題、事例、推進上のポイントを紹介する本連載。第3回は、SCMにおけるDXの打ち手の1つとして、改善効果が高く成功体験を得やすい領域である「販売計画」における取り組みについて紹介する。
人の意思決定は、必ずしも合理的ではない
意思決定は、状況を判断し最終的に人が行う。しかしながら、人の意思決定は非常に曖昧なものである。
販売計画の意思決定例を紹介する。図2は、ある月(M月)の販売実績と、1週間前に立案したM月の計画、2週間前に立案したM月の計画といったように、過去計画の推移について4地域/3カ月分を表したグラフである。見ての通り、結果として実績と懸け離れた販売計画となっている。この例では、JP(日本)とUS(米国)では、徐々に計画を上げていく傾向があり、AP(アジア域)とEU(欧州域)は、計画を一定に保つ傾向がある。各地域に計画立案者(意思決定者を含む)がいるが、その計画立案者の意思決定の傾向が表れていると考えられる。意思決定にはさまざまなバイアスが影響するが、販売計画においては、特に予算や目標達成といったバイアスが入りやすい。
近年、データに基づく意思決定(データドリブン)の重要性は、広く認知されている。しかし、人の意思決定は、以下に挙げる要因から、必ずしも合理的ではない。
意思決定に必要な情報の不足
合理的な判断には多様な情報が必要となるが、幅広い業務領域、地域、拠点にまたがるSCMにおいては必要な情報を十分に集められないケースが多い。サプライチェーン構造の複雑化により、意思決定に必要となる情報は分断され、散在することが多く、他企業はおろか自社企業内の情報を収集するだけでも困難であり、限定的な情報の中で意思決定せざるを得ない。情報の取得範囲や頻度については、IoT(モノのインターネット)をはじめとするデジタル技術の進化により、これまで収集できなかった情報(消費者の利用状況など)を利用できる可能性は広がっている。
人の情報認知の限界
人は情報認知の範囲や処理能力に限界があるため、過去の経験などから無意識のうちに優先すべき情報を取捨選択している。また自分の経験、考えを裏付ける情報を優先的に収集、採用する(確証バイアス)。結果として、意思決定に必要な情報を広く集められたとしても、限定的かつ、自身にとって都合の良い情報の中で意思決定を行っており、合理性にゆがみを生じさせる。
また、時間的に遠い対象に対しては、より抽象的、本質的、特徴的な点に注目し、時間的に近い対象に対しては、より具体的、表面的、ささいな点に注目する傾向にある(解釈レベル理論)。よって、販売計画を例にとると、直近になればなるほど、ささいなことに大きく反応して計画を変更し、精度悪化、サプライチェーン全体の計画への変動影響要因になる。
人の意思決定バイアス
人の意思決定には、さまざまなバイアスが働く。例えば、ビジネスにおいては予算や目標の変更はつきものであるが、市場環境の変化を認知しているにもかかわらず、変更を損失と感じてしまい、結局は予算や目標を維持してしまうようなことである(現状維持バイアス)。
よって、販売計画の精度向上には、意思決定に必要となる情報を十分に収集し、その情報を正しく認知し、人の意思決定バイアスを排除することが重要である。現在、機械学習を活用した需要予測の取り組みに注目が集まっているが、その特に重要な点は「人の情報認知の限界」を超えたり、補完できたりするところにある。
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