宇宙のお掃除サービスはいつ実現する? デブリ除去衛星開発の最前線を追う:宇宙開発(2/4 ページ)
民間企業による宇宙利用が活発化する中で深刻な問題となっているのが、宇宙ごみ(デブリ)の脅威だ。本稿では、デブリをこれ以上増やさない対策の1つである「デブリを除去する技術」に焦点を当てるとともに、存在感を発揮している日本企業の取り組みを紹介する。
デブリ除去の実現に向けたさまざまな課題
低軌道でのデブリ除去は、基本的に、デブリを減速させることで行う。速度が落ちれば高度が下がり、再突入までの期間が短くなる。宇宙空間とはいえ、軌道上には薄い大気が存在しており、低高度ほど大気抵抗による減速が大きくなる。高度1000kmだと落下まで百年単位の長い年月がかかるが、600km程度まで下げればこれを年単位に短縮できる。
しかし、ADRにはまださまざまな技術的課題がある。デブリをどうやって捕獲するのか。捕獲した後どうやって減速させるのか。また捕獲するためには、デブリに接近した上で、回転を観察し、相手の運動に合わせる必要がある。一歩間違えると衝突して、自分自身がデブリになってしまう危険性があり、これも決して簡単なことではない。
捕獲方法としては、今のところ主に以下のようなものが考えられている。
- ロボットアーム
- ネット
- 銛
- 粘着
まず考えるのはロボットアームだろうが、現在の技術では、まだ人間の手のように何でも器用につかめるロボットハンドは難しく、技術的な難易度は最も高い。ネットを射出する方法であれば、そうした問題はないものの、やり直しができない一発勝負という弱点がある。粘着方式は、真空中で粘着力を維持できる素材の開発が難しい。
また減速方法としては、主に以下のようなものがある。
- エンジン噴射
- 導電性テザー
- 展開膜
- レーザーアブレーション
素直に考えると、まず思い付くのはエンジンの噴射で減速することだ。しかし確実ではあるが、燃料の消費量が大きく、衛星自身もデブリと一緒に降下してしまうので、多数のデブリを処理することが難しい。コスト的にやや難があり、特に大きなデブリ相手に限定されるかもしれない。
これらの中で現在有力視されているのは、デブリに導電性テザー(長いひも)を取り付けるという方法だ。テザーに電流を流した状態で地磁気の中を飛行すると、ローレンツ力が発生するので、これを減速に利用する。減速のための燃料が不要なため衛星の小型化が可能で、コスト面に優れると期待される。
アイデアとして興味深いのはレーザーアブレーションだ。これは、デブリの表面にレーザーを照射して加熱し、ガス化した素材が表面から噴出する反動で減速するというもの。デブリ自身をエンジンの燃料として利用するようなもので、衛星側は電力しか消費しないメリットがある。また、デブリを捕獲する必要がないことも大きな利点だ。
ただ、その一方で、レーザーの当て方によっては、破損や溶融によって余計なデブリを出してしまう恐れがある。また、大型デブリだと大出力レーザーで長時間の照射が必要になるので、どちらかというと小型デブリに適した手法といえるのではないだろうか。
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