CAN信号の終端処理を適切に行う:よくあるCANの質問(1)(2/2 ページ)
CAN(Controller Area Network)システムは、一般的なインタフェースのように見えますが、CANシステムを設計、実装する際には疑問や問題がたくさん湧き出てくるでしょう。すでに多くのエンジニアがこのような課題に取り組んできましたので、「よく聞かれる質問」に対する解説をシリーズでお送りします。第1回では、CANシステムの信号終端処理を取り上げます。
質問3
CANトランシーバーが正常に機能するには、コモンモードチョークが必要ですか? なぜコモンモードチョークが使われるのですか?
CANトランシーバーがコントローラーからCANバスへの信号を変換するのに、コモンモードチョークは必須ではありません。先進運転支援システム(ADAS)、ゲートウェイ、インフォテインメントなどのほとんどの車載CANアプリケーションでは、プリント基板(PCB)にコモンモードチョークが配置されていますが、CANトランシーバーの正常な機能のためにPCBにコモンモードチョークを実装する必要はありません。しかし、コモンモードチョークは確かにCANトランシーバーの電磁放射に有効で、CANバスから生じる高周波ノイズに対するトランシーバーの電磁気耐性も向上します。
差動信号の場合、CANトランシーバーから出る電磁放射プロファイル全体は、差動ノイズと同相ノイズの要素から構成されています。差動信号は、同じ大きさで逆方向の振幅になるように設計されているので、この信号から放射されるノイズも、同じ大きさで逆方向になります。結果としてほとんどの場合、差動ノイズは、それ自体で打ち消されます。
ノイズの同相部分への対処はそこまで簡単ではありません。そこで、コモンモードチョークの出番になります。電流の変化に関連した高周波ノイズを締め出すフィルターインダクターとして機能するコモンモードチョークは、CANトランシーバーから電磁放射として生じる同相ノイズ、またはCANバスからCANトランシーバーへ外方向に生じる同相ノイズに対して逆方向の磁場を発生させます。
そのため、CANトランシーバーにコモンモードチョークは必須ではないとしても、電磁ノイズに対する感度が高く影響を受けやすいことが問題となる環境では、コモンモードチョークが役に立ちます。車のどの部分にも、このようにノイズの多い環境があり得ますが、いくつもの通信インタフェースとそのバスが1つのシステムにつながる車載ゲートウェイは、よりノイズの多い環境といえるでしょう。
質問4
CANトランシーバーのSPLITピンの役割は何ですか?
SPLITピンの役割は、CANバスに対し、より強いリセッシブ電圧レベルを駆動することで、同相ノイズを最小限に抑え、その結果ノイズの放射レベルを下げることです。このピンは、分割終端方式で、2つの60Ω抵抗の間に接続されます。CANバスの対称性は、旧来の設計プロセスには最適でないため、同相信号の偏差がより大きくなります。旧来のCANトランシーバーにあるSPLITピンはその偏差に有効で、これにより電磁放射を軽減できます。
SPLITピンが必要ない場合でも、分割終端を使って電磁干渉を軽減する利点はあります。分割終端により、CANHとCANLの両方のラインにローパスフィルターが作られ、トランシーバーからバスに出る高周波ノイズの多くが低減されます。図2に、標準的な終端と分割終端方式の比較を示します。CSPLIT値の範囲は標準で4.7n〜100nFです。
TIの「TCAN4550」「TCAN1042-Q1」「TCAN1043-Q1」のような最新のCANトランシーバーは、SPLITピンがなくても正常に機能します。TIは、CANH信号とCANL信号の対称性を増すようにする最新のプロセスを使って、これらのデバイスを設計しています。結果として、差動信号の偏差がほとんどなく、これにより同相エミッションを低減できます。
まとめ
目標とするものは、電磁放射性能の改善であったり、インピーダンス不整合による信号反射の削減や除去であったり、CANシステムのサイズやノード数の決定であったりとさまざまかもしれませんが、確実な通信にはCANバスを正しく終端することが非常に重要です。これらの質問に対する回答がその道案内になるでしょう。
シリーズの第2回では、さまざまな種類のCANトランシーバーについてCANの消費電力を測定する方法と、CANシステムに3.3V電源レールが使われる理由と使用方法を詳しく説明します。
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