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知財は事業戦略の構築段階から検討せよ、新製品投入時のリスク確認も不可欠弁護士が解説!知財戦略のイロハ(2)(2/3 ページ)

本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略の構築を図るモノづくり企業に向けて、選ぶべき知財戦略を基礎から解説する。今回は事業戦略構築時の知財の有用性を説明する。

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ビジネスモデルの適法性確認(自社ビジネスの参入障壁の確認)

 次に、(2)のビジネスモデルの適法性確認について説明します。他社が参入していない領域の新製品を出す場合、未開拓な市場に挑戦する可能性もあります。市場が未開拓のままとなっている理由はさまざまに考えられますが、当該領域での事業が既存の法規制に触れるため、という理由も多くあります。

 そのため、新製品を出す場合は、(ア)現在の法律、判例や裁判例など、監督官庁の見解などを踏まえ、自社が行おうとしている事業が適法に行い得るのか否かの確認(外部専門家への調査検討の依頼、経済産業省のグレーゾーン解消制度*2)の利用など)及び違法と判断された場合のリスクの程度の検討が不可欠です*3)

 また、(ア)の結果、既存の法律などを踏まえれば確実に適法とはいえないものの、(ア)で調査したリスクを踏まえて経営判断として事業を進める、ということもありえます。その場合、(イ)既存の法解釈を前提に特別に許可をもらう可能性の検討(経済産業省の新事業特例制度など*4))、(ウ)企業側の取り組みや働きかけを通じて、ルール策定にかかわる官公庁や業界団体に既存の法解釈変更を促すことの検討(いわゆるルールメイキング*5)や、経済産業省のプロジェクト型「規制のサンドボックス」*6)の活用も検討されたい)、(エ)結果的に法律などに違反する旨を判断された場合のリスクを最小限に留めるためにいかなる準備をしておくか、といった対処も必須といえます。

 上記の(ア)〜(エ)は、自社の事業実行可能性や実行時のリスクの程度の把握、リスク発生時の対応策の検討に必要なものであることはもちろんですが、事業戦略を構築する上で、自社事業の参入障壁の存在の有無及びその高低を確認するという意味でも重要です。例えば適法性が不透明な領域については、一般的に他社(特に大企業)は進出しづらいため、法解釈が明確になるまでは競合他社が参入してくる可能性が低い、などといったことも踏まえて事業戦略を考えることが有効な場合もあります。

*2)4)6)「経済産業省 プロジェクト型「規制のサンドボックス」・新事業特例制度・グレーゾーン解消制度」より

*3)なお、特許出願は当該発明を実施した際の適法性を確認するものではないため、この点の確認を怠ると、特許権は取得できても、当該特許発明を実施すると既存の法規制に違反するため結局実施できないという事態に陥る可能性も否定できない。

*5)詳細は、水野祐『法のデザイン』(フィルムアート社、2017年)や、斎藤貴弘『ルールメイキング ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論』(学芸出版社、2019年)などを参照されたい。

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