今も昔も安全航行の要! 富士通が挑む「見張りの完全自動化」:船も「CASE」(3/4 ページ)
「IT企業がなぜ自動運航船に?」と不思議に思うかもしれない。しかし、異業種ゆえに海運企業や造船企業にはない観点から可能性に挑んでいる。とはいえ、なにゆえ富士通は、自動車の自動運転よりはるかに困難な分野に“異業種”の立場から取り組んだのか。先に紹介した技術報の公開から2年を過ぎた現時点におけるアップデートを中心に、自動運航船関連技術のプロジェクトに携わる担当者に聞いた。
海の画像認識、使うカメラは
この画像収録予備実験は2019年10月31日〜11月1日にかけて、東京湾フェリーの金谷丸の定期運航の7往復航海において実施している。三浦半島東岸の久里浜港と房総半島西岸の金谷港を40分で結ぶ東京湾フェリーの航路は、世界でも有数の船舶航行量の浦賀水道を横切る航路を運航しているため、多種多様な船舶を撮影できるだけでなく、陸から認識が難しい船舶の正面、斜め方向の船影を撮影できる。
予備実験では、高精細光学カメラ、高感度カメラ、高精細赤外線カメラを金谷丸に持ち込んで最上甲板に取り付けた。撮影時間は朝から夜間までに及び、「多様な日照条件における画像データを収集できた」と野田氏は説明している。
実験で用いた高精細光学カメラは、この製品クラスとしては低価格なモデルだ。この理由について野田氏は「自動運航のシステムとして使う場合、高精細光学カメラの費用が高いとシステムの価格も現実的でなくなる」と述べている。高感度カメラを用いている理由も同様で、夜間などの暗い条件での撮影では赤外線カメラが効果的だが性能によって価格がピンキリのため、「価格が一桁違う」(野田氏)と安価で高感度な暗視カメラの採用を検討しているという。特に東京湾では陸側が明るいため、暗視カメラでも十分使えると見込む。
野田氏によると、実際の船舶画像識別システムでは、1つのカメラに集約するのではなく、利用場面に応じて複数のカメラを使い分けることになるという。「外洋では遠方の船舶を把握して早い段階に避航針路を決定して燃料を節約する必要があるので高精細光学カメラが適しているだろう。一方で船舶量が多い港湾では近くで多くの船を確認できないといけない。局面ごとの適性やAIとの相性、価格なども含めて適切に使い分けることになる」(野田氏)
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