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オムロンが工場実践を通じて語る、IoTや5Gの「現実的価値」MONOist IoT Forum 東京2019(後編)(1/4 ページ)

MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2019年12月12日、東京都内でセミナー「MONOist IoT Forum in 東京」を開催した。後編では、オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 企画室 IoTプロジェクト 部長の小澤克敏氏による特別講演と、日本OPC協議会 マーケティング部会 部会長の岡実氏によるランチセッション、その他のセッション内容について紹介する。

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 MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2019年12月12日、東京都内でセミナー「MONOist IoT Forum in 東京」を開催した。同セミナーは通算で12回目、東京での開催は4回目となる。

 前編では、東芝 執行役常務 最高デジタル責任者(Chief Digital Officer)の島田太郎氏による基調講演の内容を紹介したが、後編では、オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 企画室 IoTプロジェクト 部長の小澤克敏氏による特別講演「世界で最も“現実的な”IoT活用〜オムロンが実現する現場革新〜」と、日本OPC協議会 マーケティング部会 部会長の岡実氏によるランチセッション「OPC UAが注目されているのはなぜか?〜その背景と最新動向〜」、その他のセッション内容について紹介する。

≫MONOist IoT Forumの過去の記事

オムロンが取り組む「標高10mのIoT」と「iAutomation」

 オムロンでは、モノづくりを支えるさまざまな制御機器を展開してきた。ただモノづくり現場も、消費者の「作る場所」「作り方」「作る人」の変化などが進み、従来の延長線上の技術だけでは、新たなニーズに対応できない場面が増えてきている。そこで、これらに対応するために、新たに「IoT(モノのインターネット)」や「AI(人工知能)」「ロボティクス」などの先進技術を加えて、新たなモノづくり革新を実現する取り組みを進めている。

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オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 企画室 IoTプロジェクト 部長の小澤克敏氏

 オムロンが国内展示会で行ったアンケート調査では、製造現場のIoT活用について2015年度は何らかの形で「取り組み中」とした回答者は20%で、取り組みを「未検討」とした回答者は40%だった。しかし、2019年度には何らかの形で「取り組み中」とした企業は73%で、「未検討」とした回答者は0%となった。小澤氏は「IoT活用は加速している。ただ、まだ『成果が出ている』としたのは21%でこの比率を上げていくことが重要だ」とIoT活用の動向について語る。

 IoTやAIなどデジタル技術の活用は非常に幅広い技術リソースが必要になるが、オムロンではスマート工場における情報の粒度や用途を「高度」で例えて表現し、その1〜10mに特化することで、特徴を明確化している。オムロンが考える「高度」は「製造現場のセンサーや装置内デバイスなどが0mでコントローラーや産業用PCなどが10mでここまでは「製造現場」の中に納まる範囲である。サーバなどで工場全体レベルの情報を取り扱うのが高度100m、クラウドなどで企業単位や複数工場の情報を取りまとめるのが高度1000mと位置付けている。さらに、複数企業間や産業間などで連携を取る世界は高度1万mとしている。

 小澤氏は「まずは製造現場のモノづくり革新が重要だと考えている。この高度10m以下のモノづくり革新コンセプトとして打ち出しているのが『i-Automation』である」と語る。「i-Automation」の「i」は「innovative(革新的な)」を意味するとともに「integrated(制御進化)」「interactive(人と機械の新しい協調)」「intelligent(知能化)」の3つの頭文字を示し、これらのコンセプトをベースにさまざまな取り組みを進めているところだ。

「i-Automation」の具体的な取り組み

 オムロンではこれらの取り組みをまず自社内の工場で実践。得られた成果を外部に展開する取り組みを進めている。

 「integrated」は、それぞれの制御技術を進化させ、組み合わせていくことで従来難しかった制御を簡単に行えるようにするコンセプトである。例えば、高精度アライメントや高速高精度巻き線加工、高速ピッキングなどで、実際に生産性やコスト競争力を向上できたケースなどがあるという。さらにこれらの制御技術をソフトウェアモジュールとして用意しており、同社の制御機器と組み合わせるだけで、高度な制御を簡単に実現できる。制御モジュールには制振制御や高速同期制御、巻き線制御などさまざまな具体的なソリューションが用意されている。

 小澤氏は「オムロンでは20万種以上となる制御機器を展開し続けている実績がある。またこれらを組み合わせるソリューションとしての提案も数々行ってきた。これだけ幅広い製品群を抱えるのはFA業界でも他にはない。これらの機器群と製造現場でのノウハウを組み合わせて提供できることがオムロンの特徴だ」と語っている。

 「interactive」では、人と機械の協調をコンセプトとする。従来安全性の問題から、人と機械は作業空間を分離する必要があったが、規制緩和と協働ロボットの登場により人と機械が同じラインで協力してモノづくりを行える環境が生まれつつある。これらの効果を実証するために、オムロンでは自社工場でこれらのロボットを導入し、さまざまな効果を生み出している。

 いち早く成果を生み出しているのが、モバイルロボットの導入である。オムロンでは、モバイルロボット「LDシリーズ」を販売しているが、自社工場でも数多くの同ロボットを導入している。例えば、草津工場や綾部工場では、工場内の搬送をモバイルロボットに担わせることで、搬送の待機時間などを80%削減することに成功したという。「従来人が行ってきた搬送作業の75%はモバイルロボットで問題ないことが分かった。これらにより人は、人にしかできない新しい仕事に挑戦できるようになる」と小澤氏は成果について語っている(※)

(※)関連記事:多品種少量生産を限りなく自動化に近づけるオムロン綾部工場の取り組み

 「intelligent」はデータの最大活用により学習や進化するモノづくりを実現する「知能化」に向けた取り組みだ。これらの取り組みもオムロン内での実証や導入が進んでいる。上海工場では手作業中心のセルラインのラインバランスを見える化する取り組みを推進する。基幹システムと現場状況を連携させ、デジタル作業指示などを実現する他、ドライバーのトルク情報など現場の作業情報を取得。これらを組み合わせることで、エラー防止による品質の安定化を実現。また改善後のパフォーマンスを監視することで、改善効果の維持などを実現し、30%も生産性を改善したという。

 また、草津工場においては、精密放電電極の加工でAIを活用し“匠の技の数値化”による最適自動制御を実現。熟練工の五感に基づき判断していたマシニングセンタの加工条件設定を自動化し、加工時間を40%短縮、工具の摩耗量を20%削減したという(※)。野洲工場では真空ポンプの予兆保全に取り組み、予兆を捕捉することに成功。保全期間を約3割延長することに成功したという。

(※)関連記事:AIで金型加工を自動制御、熟練工のノウハウを注入し加工時間を40%削減

 小澤氏は「真空ポンプの劣化メカニズムの推定は、センサーの設置場所や正常時と劣化時のデータ取得、それぞれの特徴量の閾値設定など非常に難しかった。オムロンの製品部門だけでは実現できず製造部門などが一体となって実現することができた。現在はより難しい機械のセンシングと予兆保全に取り組もうとしている」と語っている。オムロンではこれらの自社工場での実績をベースとし、「i-BELT」などのサービス展開なども組み合わせて、現場発のモノづくり革新を推進していく方針である。

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