検索
特集

オムロンが描いたデジタル化による“リアルな”製造現場への価値とはスマートファクトリー(1/2 ページ)

MONOistはダッソー・システムズ DELMIAブランドと共に2019年11月7日、「現場改革の実践例から学ぶ! 製造デジタル変革が実現する持続可能な未来像」をテーマにセミナーを開催した。本稿では基調講演に登壇したオムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 企画室 IoTプロジェクト 谷慶之氏の講演「オムロンが推進する最もリアルなデータドリブンの製造現場」の内容を中心に、セミナーの内容をお伝えする。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 MONOistはダッソー・システムズ DELMIAブランドと共に2019年11月7日、「現場改革の実践例から学ぶ! 製造デジタル変革が実現する持続可能な未来像」をテーマにセミナーを開催した。本稿では基調講演に登壇したオムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 企画室 IoTプロジェクト 谷慶之氏の講演「オムロンが推進する最もリアルなデータドリブンの製造現場」の内容を中心に、セミナーの内容をお伝えする。

オムロンが考えるモノづくりの変化

photo
オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 企画室 IoTプロジェクト 谷慶之氏

 オムロンは創業者である立石一真氏が示した「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」という発想の下、60年以上にわたりモノづくり現場や社会のオートメーション化に取り組んできた。その流れの中で、デジタル化やIoT(モノのインターネット)活用が広がる中で、製造現場の新たな変化への対応を進めていく方針である。

 製造業の新たな変化として、地産地消などの「作る場所の変化」、多品種少量や高精密組み立てなどの「作り方の変化」、熟練工不足や人件費高騰などの「作る人の変化」の3つがあるとする。谷氏は「こうした変化は以前からあったものだが、スピードが劇的に変わっており、より切実なものになってきている」と語る。

 こうした製造現場の困りごとを解決するのは簡単なことではないが、新たな技術の採用により、これらの解決を目指す。「AI(人工知能)」「IoT」「ロボティクス」の3つの技術が大きく進化したことにより、モノづくり現場でも新たなイノベーションが生まれる期待が高まっているからだ。谷氏は「当社調査によると2年間でIoT化に取り組んでいる顧客企業は2倍に増加し、未検討の企業は40%から5%へと大きく減少した。取り組みそのものは既に始まっているので、どれだけ成果を出すことができるのかという観点がこうした革新には必要となっている」とIoTの現状について語っている。

3つの「i」で構成される「i-Automation」

 こうした中でオムロンではこれらの技術を取り入れた「革新的なオートメーション」の推進を目指し「i-Automation」というコンセプトを打ち出している。同コンセプトは「integrated(制御進化)」「intelligent(知能化)」「interactive(人と機械の新しい協調)」の3つを示す。「i-Automation」の「i」は「innovative(革新的な)」を意味するとともに、これらの3つの頭文字を示しているという。「製造現場から生まれるデータを生かし、3つのコンセプトでモノづくりを革新していく」(谷氏)としている。

 製造現場のデジタル変革といえば、クラウドやデバイスなどさまざまなアプローチが考えられるが、オムロンの取り組みがユニークなのは“高度1〜10mのモノづくり革新”として領域を限定しているところだ。「スマートファクトリーにおける情報の粒度を高度で表すと、センサーやデバイスレベルのデータが高度1mで、コントローラーやエッジコンピューティングが高度10mとなる。オムロンが重視して取り組むのはこの領域までだ。サーバレベルで工場内のデータを全て集めるところが高度100m、クラウドを使って複数工場など企業レベルでの情報収集する領域が1000m、業界全体でデータを集めて活用するレベルが1万mとしているが、これらは他社との協業で取り組む」と谷氏は述べている。

制御技術をソフトウェアで高度化

 「制御進化」については、20万点を超える制御製品を扱う強みを生かし、これらの機器および機器から得られるデータを活用し、ソフトウェアでつなぐことで、より高度な制御を行えるようにすることである。具体的には、ボールの落下や液体の移動などの衝撃や慣性をリアルタイムでシミュレーションし、これらを抑制する「やわらか制御」や、複数の装置が高速で作業するのを同期制御する「高速同期制御」などの技術を示している。

 これらを組み合わせることで、スマートフォン端末やタブレット端末のパネル貼り合わせ工程の高精度化を実現し約半分の薄型化や約2倍の高精細化を実現した他、リチウムイオン電池巻回工程において高速高精度巻き線加工を実現し、電池コストの削減に貢献する。

人と機械がともに働く生産ライン

 「人と機械の新しい協調」では、機械を分離してきた従来の働き方と異なり、人と機械が同じラインでともに働く世界を描く。具体的な活用事例としてモバイルロボットの活用を示す。オムロンの綾部工場では、自律的に動くAGV(無人搬送車)であるモバイルロボットを導入したことで搬送の待機時間を80%削減した。また人の搬送の75%をロボット化でき省人化にも貢献したという(※)

(※)関連記事:多品種少量生産を限りなく自動化に近づけるオムロン綾部工場の取り組み

 さらにその先で実現する価値として「フレキシブル生産ライン」を挙げる。「作業者とモバイルロボットの協働により、コンベヤーレスで自律的に順番などが組み替わる自律的な生産ライン構築を可能とする(※)

(※)関連記事:これぞマスカスタマイゼーション、オムロンが「動く生産ライン」を披露

photo
「2017 国際ロボット展」のオムロンブースで出展されたコンベヤーレスライン(クリックで拡大)出典:オムロン

AIを活用した分析の進化

 「知能化」については、データ分析を活用した生産性の向上への取り組みである。その事例としてオムロンの上海工場での事例を挙げる。上海工場ではコの字型の生産ラインで人手によるセル生産ラインを構築し、1人が何役もこなしながら生産作業を行っている。その作業支援とログ管理でIoTを活用。人の作業の流れをセンサーで見える化し、工程の飛ばし防止やデジタル作業指示、工数の可視化や異常作業の検知などを行っている。これらの人手作業の見える化や作業支援により生産性を30%以上向上させたという。

 さらに現場でAIを活用したさらなる分析の進化などにも取り組む。独自の「AIコントローラー」を活用し、装置の“いつもと違う”状態変化をリアルタイムに検出できるようにし、予防保全を行えるように取り組みを進めている。ただし、これらの取り組みを1社のみで実現するのは大変なことである。オムロンでは自社のノウハウを組み合わせて、製造現場の改善やデータ活用をパッケージ化してサービスとして提供する。この現場データの活用サービス基盤が「i-BELT」である(※)

(※)関連記事:オムロンが立ち上げるのは“標高10m以下”の最もエッジ寄りなIoT基盤

 谷氏は「顧客企業と一緒に課題解決を行う仕組みを構築している。ステージ1が見える化、ステージ2を分析、ステージ3を制御および制御最適化と位置付け、それぞれで生産性や品質、設備効率やエネルギーなどに何に効果を発揮させたいのかを絞り込む。それにより最適なソリューションを提案できるようにする」と語っている。これらを体感できる場として全世界で「オートメーションセンター」を設置。「製造現場におけるリアルな価値を得られるように提案を進めていく」(谷氏)としている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る