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欧州の保健医療機関はなぜ気候変動や環境問題に取り組むのか海外医療技術トレンド(52)(2/4 ページ)

2019年9月23日の国連気候行動サミット2019で脚光を浴びた気候変動/環境問題は、欧州の保健医療分野が直面する社会課題でもある。

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環境品質を健康/ウェルビーイングの中核に据えたEU

 次に、欧州全体のレベルで見ると、EUの環境政策は、欧州連合の機能に関する条約(TFEU)第11条および第191〜193条を根拠としている。第191条において、気候変動への取り組みがEUの環境政策の明確な目標であると記しており、持続可能な開発については、「環境品質の高いレベルの保護と向上」(欧州連合条約第3条)に関わるEUの包括的目標であるとしている(関連情報)。本連載第47回で、世界保健機関(WHO)の健康関連SDGs達成に向けたデジタルヘルス宣言を取り上げたが、EUの場合、気候変動/環境関連SDGsの達成が、業種・業界の枠を超えた共通目標になっている。

 その上でEUは、より環境に優しい経済を支援するとともに、欧州の天然資源を保護して、域内に居住する人々の健康やウェルビーイング(良好な状態)を保護することを環境政策の目的としている。世界各国・地域が、気候変動、持続可能性のない消費・生産、さまざまな形態の汚染といった重要課題に直面する中、環境品質を、健康、経済、ウェルビーイングの中核に位置付けている点がEUの特徴だ。当然、健康やウェルビーイングに関わる保健医療・介護福祉関連産業や、それらのサプライヤーとなる医療機器・医薬品・デジタルヘルス産業も、環境品質の維持・向上の一役を担うことになる。

 またEUは、気候変動に関わる政策および戦略を策定・実行するだけでなく、気候に関する国際交渉で主導的な役割を果たしている。現在は、パリ協定(関連情報)を成功裡に施行させ、EU域内排出量取引システム(EU ETS)(関連情報)を展開することに注力している。そしてEUは、気候問題が他の政策領域(例.交通、エネルギー)でも確実に受け入れられ、低炭素技術および適応策を促進することをめざしている。

EUが提唱するバイオエコノミー戦略

 このような気候変動/環境政策を背景として、EUが生命・健康関連分野で積極的に推進してきたのがバイオエコノミー戦略である。欧州委員会は、2012年2月13日に公表した「持続可能な成長のための革新:欧州のためのバイオエコノミー(関連情報、PDF)の中で、バイオエコノミーについて、「再生可能な生物資源の生産およびこれらの資源や廃棄物の流れの付加価値製品への転換で、食品、飼料、生物由来製品、バイオエネルギーなどを含む。そのセクターや産業には、地域の暗黙な知識とともに、幅広い科学や実現可能な産業技術の用途があるので、強力な可能性のあるイノベーションが存在する」と定義している。また、EUのバイオエコノミー戦略について、知識ベースを改善し、生産性向上を達成するためのイノベーションを育成するとともに、持続可能な資源の利用を確実なものとし、環境上のストレスを軽減することを目標としている。

 その後2018年10月11日、バイオエコノミー戦略の改訂版となる「欧州の持続可能なバイオエコノミー:経済・社会・環境間の関係性強化」(関連情報)が公表された。改訂版バイオエコノミー戦略は、パリ協定に加えて、国際連合が定めた「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」や持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を最大化するために、持続可能な欧州のバイオエコノミーの展開を加速させることを目標としている。また、改訂版は、「産業政策戦略」(関連情報)、「循環経済行動計画」(関連情報)、「クリーンエネルギー・イノベーションに関する政策文書」(関連情報)など、持続可能な循環バイオエコノミーの重要性を強調するEUの各政策にも対応している。

 図2は、改訂版バイオエコノミー戦略の全体イメージを示しており、「化石燃料ベースの経済からバイオエコノミーへの移行」「フードセキュリティの確保」「まだ利用していないもののよりよい利用」を柱としながら、長期的なSDGs達成に向けた方向性として、「気候変動」「天然資源管理」「仕事と成長の競争力と包括性」「グローバルな持続可能性」「市民とともに責任ある開発による持続可能な消費」を掲げている。

図2
図2 欧州委員会「改訂版バイオエコノミー戦略2018」の全体イメージ(クリックで拡大) 出典:European Commission「Updated Bioeconomy Strategy 2018」(2018年10月11日)

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