「サーブリッグ分析」の理解は、より効率的な作業設計には欠かせない:よくわかる「標準時間」のはなし(11)(3/3 ページ)
日々の作業管理を行う際の重要なよりどころとなる「標準時間(ST;Standard Time)」を解説する本連載。第11回は、動作分析における分析手法の一つである「サーブリッグ(Therblig)」分析について説明する。
2.サーブリッグ分析の性質
サーブリッグによる分析に慣れるためには、いくつかの簡単な動作の分析をやってみるのが良いと思います。この段階を通じて、サーブリッグの流れともいえる、ある決まった組み合わせがあることに気付きます。次のようなサーブリッグの性質を知っておくことが、分析を行う上での助けとなります。
- 「選ぶ」は「運搬」と「つかむ」の間に発生する
- 「つかむ」は、物を押さえるような場合にも用いる
- 「運搬」は、手または身体の一部が抵抗に逆らって位置を変える動作であり、いわゆる「運搬」ということのみならず、物を“滑らす”“押す”“引っ張る”“回す”など、いろいろな場合にこの記号が用いられる
- 「位置決め」は、「運搬」の前後または並行して起こることが多い。また、これは「組立」「使う」の前に起こることが多い
- 「組立」「使う」「分解」の各サーブリッグは、複合サーブリッグともいわれ、さらに分析することができる
- 「保持」は、運ぶ速度がゼロになった場合である
サーブリッグ記号は、現象をありのままに表現するための一種の約束で、抽象的な言葉でいろいろと表現されているものを簡潔、正確に表現しようとするものです。サーブリッグ分析を行うときは、頭の中の抽象的概念にとらわれず、現象をありのままに観察することが大切です。
3.モーションマインド
ほとんど無意識の中で動作や作業方法を把握して、あたかも系統的な分析手法を適用していくことと同じようなステップで考えることができ、問題点の摘出や改善点の着眼を発想できる能力や態度を「モーションマインド(Motion Mind)」と呼びます。
バーンズは、「サーブリック記号による分析は、モーションマインドを体得するのに大いに役立つ」と述べ、モーションマインドが、時間研究にとっても大切なものであり、サーブリック分析がそれを育成する上で重要な役割を果たすことを説いています。モーションマインドに基づく行動を要約すると以下の3段階となります。これを「モーションマインドの3要素」といいます。
- 動作の違いに気が付くこと
- 動作の違いを明らかにして、良い動作を判断できること
- 良い動作設計ができること
以上のように、観察して“差異を発見する”ということは、モーションマインドに基づく行動の第一歩です。また、“動作の違いを明らかにして、良い動作を判断できる”ということは、さらに、“動作の違いを書き表すことができる”ということと、“動作の良しあしを判断できる”ことを意味しています。そのためにはサーブリッグ記号の意味や動作経済の原則などをシッカリと理解しておく必要があります。
“良い動作設計ができる”ということは、ちょうど機械の設計技術者がそれぞれのアイデアを構造図面や回路図面として表すように、自ら最良の動作を記述し、具体的に提示できることをいいます。サーブリッグの分析者は、身近のあらゆる機会を通じて、いわゆる“良い動作”の感覚を養い、反射的に対応できるまで鍛錬しておかなければなりません。
4.サーブリッグ分析
いろいろな方法がありますが、ここでは目視動作分析を行う場合の手順について説明します。サーブリッグ分析は、精度の点や動作の所要時間が分からないといった欠点はありますが、動作意識を身につけるための訓練とか、作業改善のヒントをつかむためには有効な方法です。
まず、サーブリッグ記号を十分に理解することが重要です。次に、個々のサーブリッグ記号を暗記します。誰かに依頼して、簡単な動作を20回くらいやってもらい、それをサーブリッグ記号で記録していきます。できれば、何人かで行うことで、お互いの間違いを指摘し合い、最後は全員が同じ分析結果になるように訓練していきます。
4.1 サーブリッグ分析の手順
この目視動作分析は表2(例)にあるような分析表を使用して、次のような手順に従って行います。
- 分析の対象とした作業を数回観察する
- 1つのサイクル作業をいくつかの単位動作に区分する
- 一つ一つの区分にふさわしい単位作業の名称を付ける
- この区分毎に、作業者の左右の手のうち、先に動作を始める手(先行手)から動作をサーブリッグ記号とサーブリッグ名を記入する
- もう一方の手が先行手を助ける(補助する)時点を正確に把握し、分析用紙の先行手の記号の横に並べて記号を書き、サーブリッグ名を記入する
- 分析結果通りに自分で動作してみる。そして、分析漏れがあって動きが滑らかにつながらない部分がないか確かめる
- 作業に含まれる人間の身体動作や目の動きを分析し、ムダな動きを排除して、より良い動作の順序や組み合わせを設定する
◇ ◇ ◇ ◇
サーブリッグは、その必要度によって、以下の第1〜第3類の3つのグループに分けることができます。
- 〈第1類〉つかむ、空手運搬、運搬、離す、検査、組立、分解、使う
- 〈第2類〉探す、選ぶ、位置決め、前置き、考える
- 〈第3類〉保持、避けられない遅れ、避けられる遅れ、疲労のための休憩
第1類に属するものは、仕事を行う上で一応必要な動作と考えられます。しかし、順序を変えたり、より楽に短い時間で仕事ができたりするように改善を考える必要があります。
また、第2類に属するものは、第1類の動作に要する時間を遅らせる性質を持っています。従って、できるだけ排除すること考えなければなりません。第3類は、明らかに仕事が行われていない状態です。従って、第2類と同様にそれらを排除することが最も効果的です。このようにして、最良の作業手順の設計を行っていきます。
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筆者紹介
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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