2025年に“日の丸”自動航行船が船出するために必要なこと:自動運転技術(4/5 ページ)
「船の自動運転」と聞いて何を想像するだろうか。クルマの自動運転よりも簡単とは言いきれない。目視による見張り、経験と勘に基づく離着岸時の操作……これらをどう自動化するか。自動航行船の実現に向けた開発動向を紹介する。
人工知能はベテラン船乗りの経験と勘を超えられるのか
レーダーで探知が難しく、AISでも認識できない船舶の発見と動静把握のためには、その姿を直接認識して継続して監視するしかない。例えば自船から観測した方位が継続して不変の場合、その船と衝突する危険がある。そういう事情からIBS(Integrated Bridge System:統合化ブリッジシステム)を導入した最新鋭の船舶でも、目視による見張りを原則としている。自動運航船は、この目視による他船動静把握もカメラなどのセンサーで実現しなければならない。
船の全方位監視のためにカメラを搭載して見張り用として運用しているケースはある。カメラも通常の可視光だけでなく、暗視カメラ、そして赤外線カメラも用意して、夜間航海や荒天航海でも周囲の船を“モニター画面”を介して人間の目で発見するのは、既にある技術で可能だ。
しかし、カメラが撮影した画像から船を認識し、かつ、画像だけで相手の船までの距離と相手の船の針路と船速を求めるのは容易ではない。レーザー式や光学式の測距儀を組み込んだカメラであれば距離のデータだけは取得できるが、レーダーやAIS情報を使わずに画像だけで距離、針路、船速を求めるには、発見した船に関する全長や幅、喫水から各部の高さ、各方位における姿、船首や船尾に立つ波(ウェーキー)の大きさと船速の関係などのデータが事前に必要だ。
とはいえ、世界中に存在する全ての艦船、船舶についてこれらのデータを事前に用意するのは現実的でない。船長と航海士は、それまでの経験から得た情報の中から似たような船を基に類推して、目の前の船に対して針路と速度を推測して衝突の可能性を判断する。現代では、「経験を基にした類推と推測」という処理は機械学習と人工知能(AI)で解決を試みることができる。実際、世界各国の造船会社や船会社、そして、IT企業などが画像認識と機械学習、AIを組み合わせた「自動見張り」システムの開発を試みている。
富士通は、自動航行船プロジェクトの実施者に指定されていないが、独自に自動航行船を可能にする要素技術の開発に取り組んでおり、その概要は社内技術誌「FUJITSU JOURNAL」で2018年7月に掲載している(Webで閲覧可能)。
富士通が取り組んでいる要素技術の1つに「見張り業務の自動化」がある。船首方向に取り付けたカメラで撮影した画像をAIで解析し、航路標識や定置網など漁に用いる浮き仕掛け、漂流物などを除外し、「自動車運搬船」「バラ積み貨物船」「タンカー船」「コンテナ運搬船」「その他小型船舶」を認識する実証作業を進めている。遠方にある複数の船舶や交差する船舶の識別に成功する一方で、2018年7月時点では小型船舶と波を区別できず、機械学習でより多くの方位から撮影した船舶の画像が必要など課題も多いとしている。
自動操船機能で実現を予定しているもう1つの項目は「座礁予防機能」だ。電子海図を照合して自分の船の航路上に浅瀬や洗岩、暗岩、洗出岩など乗り揚げ、座礁の危険を察知して避航する機能だ。ただし、「座礁の危険を察知」については、現在実用化している電子海図と航法支援システムの組み合わせで既に利用できる機能でそれほど難しいものではない。そして、避航する機能については先に述べた他船との衝突防止機能と共通する。
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