東大発ベンチャーが打ち破るLPWAの限界、マルチホップ無線「UNISONet」の可能性:モノづくり×ベンチャー インタビュー(1/2 ページ)
東京大学発ベンチャーのソナスが開発した省電力のマルチホップ無線「UNISONet」は、LPWAネットワーク技術として独自のポジションを築いている。橋梁やビルなどの構造物振動モニタリングの用途で、本格採用に向けた実証実験が進んでおり、工場や倉庫内設備の予知保全という新たな用途に向けた事業展開も広げようとしている。
国内製造業にとってIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の活用は喫緊の課題となっているが、これらに関わるとがった技術を持つベンチャーやスタートアップは国内にも多数ある。それらの中でも、IoTに特化した通信手段であるLPWA(低消費電力広域)ネットワーク技術で独自のポジションを築いているのが、東京大学発ベンチャーのソナスだ。
同社が開発した省電力のマルチホップ無線「UNISONet(ユニゾネット)」は、電波環境変動に強く安定で、電池で年単位駆動の省電力、2KB/sの高速通信、上りと下りの双方向ともに1秒以内の低遅延、ロスレス、μsオーダーの時刻同期、1つのネットワーク内に数百台以上という多数収容などの特徴を備える。
この特徴を生かして、橋梁やビルなどの構造物振動モニタリングの用途で、本格採用に向けた実証実験が進んでいる。そして、工場や倉庫内設備の予知保全という新たな用途に向けた事業展開も広げつつある。
「同時送信フラッディング」の実用化に成功
ソナスを創業したのは、CEOの大原壮太郎氏、CTOの鈴木誠氏、IPA(情報処理推進機構)の未踏スーパークリエータにも選ばれた神野響一氏という、東京大学出身の3人の技術者だ。東京大学卒業後にソニーで半導体開発に従事した大原氏が、大学時代の研究室の先輩である鈴木氏と意気投合し、鈴木氏とともにUNISONetの中核技術の研究開発に携わっていた神野氏の3人で立ち上げた。創業は2015年11月だが実質的に事業を始めたのは2017年4月になる。大原氏は「事業開始までの1年間は、UNISONetの中核技術の開発を進めていた」と語る。
UNISONetは、親機から子機への通信を行う方法として、親機と子機が直接通信するスター型ではなく、子機がデータの中継機能も持ちバケツリレー式にデータを転送して通信するマルチホップ型を取っている。省電力かつ広い通信範囲と一定以上の通信速度を確保可能なマルチホップ型の無線通信だが、複雑なデータ転送経路制御(ルーティング)が必要なことが課題になっていた。
マルチホップ無線におけるルーティングという課題を解決したのが、鈴木氏が東京大学で研究を続けてきた「同時送信フラッディング(Concurrent-Transmission Flooding:CTF)」だ。CTFは、2011年に発見された「複数のノードから、同一データを同一タイミングで受信すると、致命的な干渉が発生しない」という現象に基づいているが、このCTFを実用的な通信技術に仕立てたのが鈴木氏の研究成果だった。このCTFと、発信元ノードを状況に応じて適切に選択し、それを緻密にスケジューリングする「細粒度スケジューリング」を組み合わせることで、ルーティングを必要としないマルチホップ無線であるUNISONetという通信技術が確立されたのだ。
ソナス創業当時、大原氏はUNISONetが橋梁やビルなどの構造物モニタリングに最適なLPWAネットワークになると確信していた。「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のプロジェクト『インフラ維持管理・更新・マネジメント技術』も率いていた横浜国立大学(上席特別教授)の藤野陽三先生と接点があったこともあり、計測の漏れや抜けが大きな問題になる構造物モニタリングは、UNISONetでなければ実現できないと思っていた」(大原氏)という。
現在、構造物モニタリング向けの事業展開は、先行顧客企業との実証実験を終えて、これらの顧客企業が構造物モニタリングをサービス化していくための段階に入っている。大原氏は、「顧客である、道路会社、ゼネコン、エンジニアリング会社、土木コンサルティング企業とともに、これから数年かけてサービスを作り上げていくことになる」と述べる。
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